L-SS(BOOK)03
□Pieces
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じっと手のひらのピースを見つめてみる
可愛らしい曲線をなぞる
ねえ、君の居場所はどこ?
「…駄目か」
「超能力でも試しているんですか」
「うーん、近いかもしれない」
「成功した暁には是非私にご一報を」
「…どして?」
「利用価値、使い道、悪用方法に関して検証する必要があります」
「はー…それはまた熱心なことで」
「で、どうかしたんですか」
「この子がねえ…すごく特徴的な絵柄なのにどこにはまるのかほんと分かんないの」
親指と人差し指で目の高さに翳したパズルのピース。
テーブルの上には七割程度出来上がってきた1000ピースパズル。
枠を組んで大きな絵柄を完成させて、そろそろ細かい部分を仕上げようという段階。
そこで目に留まったピースは三辺が飛び出ていて一辺が引っ込んでいる。割とすぐに分かりそうなのに、端から端まで見渡してみても場所を見つけられない。
「別のパズルに迷い込んだ迷子みたいだよ」
「迷子になっているのはあなたに見えますが」
「あー、分かんない」
「他を先に進めては」
「なんか気になるんだもん。なーんか気になるんだもん」
「二回言いましたね」
「二回言ったね」
「…手を出しましょうか」
「………うーん…いや、いい……」
「元の絵を見れば繋げなくとも場所は分かるはずです。私は見なくとも分かりますが」
「……あのねえ、」
「例えばこれはここです」
周りに何もない場所につまんだピースを置く。
「……え」
「これはここですね」
「……ちょっと、」
「お次はここ」
「…待って待って、ちょっと待って」
「飛んで逆側」
「待ってってば!駄目これ私がやってるんだから!」
「未完成のまま早三日です。いい加減飽きました」
「外野は黙ってて、これはわたくしめに与えられた崇高なミッションなのです」
「次はここです」
「やめてー!」
パチパチと適当にピースを摘み上げては隣り合うピースがない場所にもある場所にも迷わず置いていく。凡人には分からない。天才の頭の中身など分かろうはずがない。しかし、しかしだ。娯楽を邪魔されてはたまらない。ひとつひとつピースをくっつけていざ完成というその瞬間、どれだけ高揚感に満ち達成感を得られるか、天才などという生き物には生涯分かるまい。
非情なことをするものだ。きみが背中を向けている時間が長過すぎて私、こんなことに夢中になっているというのに。飽きました、なんてひどいじゃないか。まったく気紛れに懐いてくる、野良猫よりたちが悪い。
「…あー」
「以上です」
「何ということを」
「先ほどの段階まで戻しましょうか」
全てバラしてもう一度、再現しましょうかと天才は問う。
「…結構です」
握り締めたピースの居場所はもはや明白。ぽっかりと空いたその場所にはへこんだ箇所がみっつ。飛び出た個所がひとつ。
「……はい、チェックメイト」
パチ、と小気味のいい音を立てた
気持ち良くはまったワンピース
そうか、君の居場所は
そこだったのか
「僕の場所は、ここ」
とんとん、とピースを小突く
「ここだよ、って。ピースが話しかけてくれないかなって思ってたんだ」
「テレパシーといった類のものでしょうか」
「でも、駄目だった」
「凡人のあなたがある日突然超能力者になられては困ります」
「さらりと失礼なことを仰る」
「心を読まれてはたまりませんから」
「真っ先に竜崎の心読むわ、解読不能かもしれないけど……なんてね。あーあ、あの子の場所、見つけたのは竜崎ね」
「周りを囲って型に嵌めるというやり方はあまり好みませんが」
「その割に見事な手際ですこと」
「何度でも邪魔しますよ、私は」
「凡人のささやかな楽しみを、何てこと」
「そろそろこちらを向いてくれませんか」
ぶすっ面の私に竜崎は両手を広げて問いかける。
「あなたの場所は、どこですか」
「……狡い」
知ってるくせに、わざわざ問いかけるなんて
狡いな
狡いよ
ぽん、と収まる身体
竜崎の胸に身体を預けてまるで、
パズルのピースとピースみたいに
ぴったりと、くっついて離れられない
「………次邪魔したら砂糖で蕁麻疹が出る呪いをかける」
「あなたには超能力や黒魔術といった類の才能はなさそうですから、」
痛くも痒くもありません
そう言って近付いた唇に、観念して目を閉じた。
分かってるよ
分かってるんだ
私の居場所はいつも
あなたの隣だってこと
END
竜崎なんてどうせあれでしょ、ど真ん中からパズル組むタイプなんでしょ。3月の零ちゃんみたいに製造工程からパズルの曲線繋げていく理解不能の思考回路なんでしょおおお。ニアもきっとそう。可愛げがなくて、可愛い。
2022/1/5