G-SS(BOOK)

□雨上がり
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雨上がりの帰り道。靴の先で水溜まりを蹴って歩く君の後ろ姿を眺めながら歩く。


「ザキ先輩ー、なぁにトロトロ歩いてんですか?雨宿りで時間食っちゃったし、早く帰らないとまた副長にどやされますよー」

「いつもこんなもんでしょ」

「いつもはもっとスタスタ歩いてるじゃないですかスタザキ先輩」

「ま、いいじゃない」


君を見てると面白いからさ


なんて、言わないけど。



「変なの」

まだ少し濡れたままの隊服の上着をくるくると振り回す。と、跳ねた滴がぴちゃりと頬にかかる。


「冷た」

「あ…かかっちゃいました?」

「見ての通り」

拭わずに俺は言う。すいまっせーん、と君は大して気にする様子もなく(むしろ楽しそうに)言う。


ついさっき上がったばかりの雨。突然降って、ぴたりと止んだ。何のことはない、ただの通り雨。


だけど、


「もー、置いていきますよ?」

屋根から滑り落ちる一滴や、葉から零れるひとしずく。膨れた君のその顔も、

全部が妙に、光って見える


「先輩、雨も止んだし」

十歩ほど先にいる君が少し離れた俺に声を張って話し掛ける。

「帰ったらまたミントンしましょーね」

そんな、顔して。


「いいけど、きっとまた俺が勝つよ?」


しれっと何でもない顔をして俺は言う。

裏腹の言葉を吐くのはお手のもの。本当は全然別のこと考えてるなんて、君は知らないだろう?



急に降り出した土砂降りの雨に追われて駆け込んだ店屋の軒先。触れた腕が伝えた生々しい体温と、濡れた前髪を額にはりつけたまま止まないですね、と空を見上げた君。

あのまま、雨に閉じ込められたまま。まるで止まってしまったみたいな時間のなかにもう少しだけ居たかった。


なんて、

絶対言わないけど



ゆっくりと歩き続ける俺を怪訝そうに、でも振り返り振り返り歩く君。



雨のあとの柔らかい陽射し。夕暮れの明かり。


君はまた振り向いて、笑った





―君が、好きだよ





ぽつりと呟いた言葉。

聞こえたか、聞こえてないか。君はぽかんとこちらを向いたまま立ち止まる。


言う、つもりはなかったんだけどな


なんかね、言いたくなっただけ



立ち止まったままの君にゆっくりと近付いてもう一度呟くと、真っ赤な顔して俯いて、同じ速度で歩き始めた。



見上げれば異国の船が飛び交う空の上、なんとも鮮やかな虹を見つけた










END
2010/1/25


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