G-SS(BOOK)
□月夜、想いは今世を超え
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※CP:土方×ミツバ
【月夜、想いは今世を超え】
たったひとり惚れた女がもうこの世にはいない
触れたかったこの手を振り払ってでも幸せになって欲しかった女が
もうどこにもいない
二度と会えない遠い場所へ
ひとり
行っちまいやがった
月がくっきり見える夜。あの時辛過ぎる煎餅の所為にして泣いた自分のことを思い出す。
最期の瞬間だって、手を握ることさえかなわなかった。どうすることがお前にとって一番幸せだったのか、なんて。俺には分からなかった。
どうすることもできなかった自分を思い出しては責める。アイツは笑ってた。
いつもいつも、見守るように
柔らかく笑って―
「…っ」
真夜中の庭で月を眺めていたら背中に衝撃を受けてよろめく。振り向けばドSバカ王子が刀の柄を俺の背中に押し当てている。
「テメェ…」
「隙だらけですぜィ土方さん。俺じゃなくても殺れそうだァ」
すっと離れてとぼけた顔を見せる。
「今日の土方さんは運がいいや。俺ァ今日は機嫌が好いんでさァ」
「運が悪かったら殺られてたってのか」
「たりめーでさァ。いついかなる時もテメーの命ァ狙ってる人間がいるってこと忘れちゃいけませんぜ」
「身内に狙われてんだ、忘れるわけねーだろ」
珍しく大人しいと思ったら、こいつも月を見上げてやがる。身内、ってくらいだ。普段は別だが今だけは思っていることぐらい分かり過ぎるほどに分かっちまう。
分かっているからこそ、口には出せねェ。
「やけに月が明るくて、眠れやしねェ」
呟くように、独り言のように総悟が言う。
「今日の月は綺麗だァ。まるで―」
言葉が、切れる。
―姉上の髪みてェだ
、か。
そうだ。アイツの髪もあんな風に、綺麗な月色だった。
アイツがいなくなって。俺と総悟は何も変わらない。アイツのいない世界で、生きている。まるで平気な振りをして。そうでなければ困る。俺も、総悟も。
ことあるごとにアイツのことを思い出しては訳の分からない衝動に駆られる。思い出そうとすればいくらでも出てくる。覚えている。今も。
アイツのことを懐かしく思い出すことなんて、出来るわけがない。
俺も、総悟も。
「総悟、」
「何でィ土方」
「…テメーみてェだな、あの月」
「…悪いモンでも食ったんですか、土方さんらしくねーや」
「テメーの丸顔が、だ」
「土方死ねコノヤロー」
「沖田死ねバカヤロー」
「土方うんこヤロー」
「沖田クソヤロー」
「…俺ァあんな綺麗なもんには似ても似つきませんよ。くだらねー、もう寝ます。闇討ちにはせいぜい気を付けて下さい。…アンタ殺るのァ俺ですから」
憎まれ口を叩きながら背中を向ける。
再び月に、目を移す。
俺たちがお前について話せる言葉なんてのは今はまだこれだけで
お前の存在すら口に出すのを躊躇ってる
月色の髪をしたお前と同じ髪をしたアイツに
やっぱりテメーは姉貴によく似ていると、
地球一周分の遠回しでそう言うことだけが今の全てで
俺を付け狙ってばかりのクソ可愛くねェガキだがしかし、
お前の大事な弟だ、ってな
見てるか、ミツバ
俺達ァお前のいないこの世界で
何とか必死に生きてんだ
俺達が置いて行ったお前が最期には俺達を置いて行きやがった
俺達がいつかお前のいる場所へ行くまで、そこで待ってろ
絶対待ってろ
もしも生まれ変わりがあるのなら
もしもその世界で出会えることがあるのなら
言いてェ事が 山程あるんだ
いつかまた、出会えるのならば
―今度は絶対、離さねェ
END
2011/8/18