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□誰よりも優しいきみへ。
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誰よりも先を読むあなたに、少しでも"予想外 "を起こしたかったから。
「ラービっ!」
どん、と背後から背中を押す。
なるべく気配を消して近づいたのに気づかれていたようで、特に驚いた様子もなく静かに名前を呼ばれた。
振り向いたラビはすごく冷めた顔をしていて、心底呆れたようにため息をつく。
「だからムダだって。これで何回目?」
「えっと…10くらい?」
「残念、13回目さ」
いい加減諦めな、とラビは言う。
病室で初めてあったあの日からどれだけ経っただろうか。
初めは柔らかかった笑顔も、最近は滅多に見られない。
こうなったきっかけは僕の失言にあった。
なんでそんなに、辛そうに笑うんですか?
そう聞いてしまったその日からラビは僕に冷たい。
「もうちょっと優しくしてくれたっていいじゃないですか…」
「何言ってんさ。自然体バンザイだろ?」
「ラビの自然はもっと優しいはずです」
「そりゃあ、そう思っててくれたほうが楽だったしな」
ふー、と気だるげにタバコを吐き出す。
地を出し合える関係、といえば聞こえはいいけれど、実際は違った。
心の距離が近づいたような開いたような、なんともいえない感覚に襲われる。
どんな時でも神経をはりめぐらせて、時には仲間に溶け込むために、時にはそれを遮るために感情を操るラビ。
ブックマンになるためにはそれが必要だとしても、どうしても僕には納得出来なかった。
唯一気を許せる仲間の前でさえ、心を休める場所のホームの中でさえ気を緩めないラビの休息の地はどこにあるのか。
「僕にすればいいのに」
利用してくれてかまわないのに、と本心からの言葉をもらす。
僕がラビの作り物の笑顔に気づいたのも、どうにかして笑わせたいと思うのも理由は一つしかなかった。
先の先のそのまた先を読んでしか動けない彼に、少しでも素直な感情を与えたかった。
「アレン」
珍しくラビから呼んでもらえて顔を上げたら、がくん、と視界が揺れる。
バランスを崩しそうになった僕を支えたのはラビの左手で、僕の右手に触れるのもいとわずにぐいっと引き寄せてくれた。
「バカじゃねぇの」
くしゃりとゆがんだその顔が何の感情をあらわすのかわからない。
だけど本当に優しくない人が、考え事をしていて階段に気づかないような馬鹿を助けてくれるはずがなくて、こんなに長いあいだ話し相手をしてくれるはずがなくて。
「ラビは、優しいですよ」
泣きそうになりながら必死にそう訴える。
だから、そんな目で見るなって。
浮かんだ苦笑が何を隠そうとしたのか、今ならわかる気がした。
誰よりも優しいきみへ
(ほんとに今が自然体なら、もっと楽しそうに笑えるでしょう?)
優しさとか仲間を思う気持ちとか、全部を"演技"にしたいラビと、そうじゃないことを知ってるアレン。
アレンに気づかれてからアレンは特別な存在だけど、近い未来に一緒にいられなくなることを知ってるから、いっそ嫌ってほしいくらいに思ってるラビさん。
黒いラビが書いててめちゃくちゃ楽しかったです^^