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□なみだいろ。
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“もしこれが、全部夢だったなら。”


そんな馬鹿げたことを俺は今まで何度考えただろう。


幾度も繰り返し、昔の幸せだった頃を思って。


そして今日もまた、

現実を思い知って笑うのだ。


(あぁ俺は、なんて愚か。)





《なみだいろ。》





「ラビ、」


朝だよぉ。

幼くてだらけた声が俺の意識を夢から呼び戻した。

夢の中の俺は本当に幸せそうに笑っていて、もう随分と昔のことのように感じてなんだか懐かしい。

現実の世界で俺が最後に笑ったのはいつだろう。



「一ヶ月くらい前じゃないのぉ?」


言われて顔を上げたら、目の前の少女―ロードが、見た目の年齢に合わない大人びた笑顔を浮かべた。


「少なくとも僕たちは、ラビの笑ってるトコ見たことないもん。」

「…勝手に人の心よむなって言ったろ」

「あれぇ、そうだっけ?」

「ちゃんと言ったさ。ここに来てからもう21回」

「ふふ、さすがブックマンだねぇ」


今度はにっこりと、ロードが笑った。


―俺はじじいと一緒に、ブックマンとしてノア側に回った。

今日でちょうど一ヶ月。

おいてきた仲間達のことは、考えないようにしていても毎日思い出す。


(…アレン、)

心の中で、もうきっと会うこともないだろう少年の名前を呼んだ。


…なぁ、今更笑っちまうような話だけどさ。

俺、本当は仲間をとろうとしたんだ。

ブックマンとしての人生を捨てて、仲間―リナリーを、ユウを、コムイを。

お前を、選ぼうとしたんだよ。


「…ゴメン、な」


お前は泣いてくれたかな。

俺との別れを、悲しんでくれたかな。


もしそうだったなら、俺はそれだけでいい。

憎悪でもなんでもいいから、

“オレ”を、お前の中に存在させて欲しいだけ。


随分自分勝手だけど、
信じてもらえないだろうけど。


…アレン、


俺は、お前を。



「…ラビ?どーしたの」


今度はいいつけを守ったのか、ロードが首を傾げて俺を覗き込んでいた。

ノアは黒。

白はもういない。


わかってるよ。

俺の中で俺に微笑みかけてくれる白は、夢なんだってこと。


(…それでも、俺は。)


「…大好き、だったんさ」


あの時もそう。

今は、夢の中で。

お前だけを愛してる。


「…誰を?」

「さぁ。誰だろな」


空を見上げる。

そしてまた、現実を思い知る。


ここにはいないお前を、

俺は一生、愛しているよ。






見上げた空は今日も、


涙色。






(ただ一つ願うなら、君の見上げた空が澄み切った青でありますように。)






fin
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