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□I'm here.
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必死に努力して、

ボロボロになって、

無理矢理笑って。


…そんなお前を、

愛しいと思うようになったのはいつからだったか。




《I'm here.》




―真っ黒の部屋。

そこに力無く座り込む白。

アレンは今、声を殺して泣いている。


「…おい、」


問い掛けても返事はない。

小刻みに震える肩が見ていて痛々しい。


「…泣くな、馬鹿弟子」

「…泣いてません。」

「声震えてんぞ」

「…っ」


言ったら、ますます鳴咽が激しくなった。

今まで黙ってた俺に対する怒りとか、マナへの思いとか。

きっと溢れる涙には様々な感情が含まれているのだろう。


「…悪かった、って言っても許せねぇよな。」

「…」


ようやく顔を上げたアレンの顔は涙でぐちゃぐちゃで、睨むように俺を見上げた。


「…師匠が知ってること、これで全部ですか」


やっと呼吸を落ち着けて、暫くの沈黙の後投げ掛けられたのは消え入りそうなくらい小さな声。

俺は無言で頷く。


「…ホントですね?」

「本当だ」

「…もう隠し事されるのは御免です」

「あぁ。すまなかった」


しゃがんで視線を合わせて、深く頭を下げる。

アレンは視線を横にそらして、もういいですよ。と小さく告げた。


正直、一言や二言謝っただけでそんな言葉が聞けるとは思っていなかった。

これから一生恨まれるのだろうと、もう以前のように話したりは出来なくなるのだろうと思っていた。


「…アレン…」


小さな体に背負わされた運命はあまりに酷すぎる。

俺はここにいるからと、お前の隣にいるからと、抱きしめてやりたくなった。


アレンを拾ったのは14番目と関係があったからだ。

そこに愛があったわけじゃない。

けれどいつの間にか、人一倍傷ついて、努力して、無理矢理笑って、そして一人で泣くその姿を、どうしようもなく愛しく感じるようになった。

まるで息子を見守る父親のような、今までの俺には一切存在しなかった優しい感情。


「…14番目の宿主、なのになぁ。」


真っ白な髪を撫でたら、アレンは驚いたように顔を上げて俺を見た。


「…マナは、お前を愛すのと同時に14番目を愛してた。」

「…。」

「だがなアレン、俺の弟子はお前だけだ。14番目は関係ねぇ」

「…師、匠?」


不安げに顔を上げたアレンの髪をぐしゃぐしゃにして、笑う。


「お前はお前だ。わかったな?」

「…師匠…」

「落ち込んでんじゃねぇよ、馬鹿弟子。らしくねぇぞ」

「…はい。」


小さくだが、久しぶりにアレンが笑ったのを見た。

アレンに気付かれないように視線だけを動かし、壁にもたれて立っているブックマン後継者に目をやる。

無表情の中に浮かぶ微かな焦り、動揺。

後継者という立場を考えたら酷なことかもしれないが。


(…頼むぞ。)


目が合った瞬間、口パクで告げる。

流石というべきか後継者は瞬時に読み取ったらしく、一瞬躊躇した後、頷いた。


これまでアレンを支えたのは仲間の存在と、そしておそらくあの後継者。

最後に会った時より表情が豊かになっていたアレンに驚いた。


(…あんな顔も出来たんだな。)


それさえ知らなかった俺には、…今までアレンに何も教えなかった俺には、こんなことを願う資格なんてないのだろう。

それでも、今はただ願う。

変えられない運命が、少しでも遅く訪れるように。

それまで、

誰よりも優しく、不幸なこの少年の支えになれるように。


チャリ、と胸元で十字架が音をたてた。

あぁ、神はなんて残酷。

出来ることなら直接会ってぶん殴ってやりたいといったら元神父失格だろうか。


「…アレン、お前を」


愛しているぞ。


囁いたのはアレンにとっての愛の呪文。

それが降り積もって、お前の心の穴を埋めればいい。

壁ぎわで、後継者が泣きそうな顔をして微笑ったのを見た。


―アレン、

((お前を、愛してる。))






fin.
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