報告書3

□偶然
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「よう土方、奇遇だな」
「…またお前か…」

呼び止めた相手を見やり、土方は嫌そうな顔をした

「街を堂々と歩いてていいのかよ、指名手配人が…」

呼び止めたのはテロリスト、真選組の敵であるはずの高杉

「心配してくれんのかぁ?可愛いやつだな。安心しろ、捕まるようなへまはしねぇよ」
「誰が心配したか。今ここで捕まえてやるぜ、テロリスト!!!」

高杉を斬ろうと刀を抜く。しかし、抜こうとしたその手は高杉に掴まれた

「っ!!」

掴んだ手を高杉は自分の元に引き寄せる。傾いた土方の体をそっと抱きこむと、顔を近づけてきた

「は、放せ!!!」
「俺を捕まえる?何言ってんだ。俺はとっくにお前に捕まってるぜ」
「…はぁ?」

話が全く分からない。というより、会話のキャッチボールができていない

テロリストである高杉が自分の目の前に現れたのは一ヶ月前からだ
高杉が言うには、将軍の警護をしていたときに見かけて“惚れた”らしい

巡回のルートがばれているのであろう、高杉は必ず土方が一人になったときに現れた
奇遇もなにもあったものではない。帰ったら見直しをしなくてはならなくなってしまった

高杉の発言で鳥肌が立った腕をさすりながら、大きくため息をついた

「お前、実はバカだろ」
「お前のことに関してなら、いくらでもバカになれるぜ」
「…もういい」
会話にならない状態というものがこれほど辛いものだとは知らなかった。言葉の変化球、もうこれは魔球だ。消えるタイプの
総悟も万事屋も、人の話は聞かないが会話はできていた気がする。少なくとも、理解できる言葉を話していた

「でよぉ、土方。そろそろ二人でどっか行かねぇか?」
「そろそろって何だ!!勝手に仲良しにしてんじゃねぇよ!!」
「照れてんのかぁ?ククッ、可愛いな。まぁ初デートになるわけだからな、お前の行きたいところでいいぜ」
「…今すぐ真選組の留置所に案内してやろうか」
「おいおい、もう家族に挨拶か?俺としてはもっと段階を踏んでから行くつもりだったんだが、お前が言うなら行くぞ」
「わーっ!!嘘っすんません嘘ですっ!!だから行くなぁぁぁぁ!!」
「あん?行かねぇのか?」
「お前と屯所に行けるかぁぁぁぁ!!」

手を引き歩き出す高杉を必死に引き止める
何を言ってもダメだ。耳に何か都合よく変換される機械でもついてんのか?

「土方…俺とどっかに行くのはそんなに嫌か」
「嫌とかそういう問題じゃねぇだろ!!」
「そんなに嫌か?」
「だからっ…っ?!」

見当違いのことを言い出した高杉に怒鳴ろうとして、土方は固まった
残虐なテロリスト、幕臣を殺してまわる指名手配犯が土方の袖を掴み、至極残念そうに目を伏せる。その姿はまるで叱られた犬に近い
そういや昔の総悟も怒られるとこんな顔だったな…
なんか…か、可愛いかも…
知らず知らず和んでいる間の沈黙を高杉は肯定と受け取ったのか

「悪かったな…日を改める」

寂しそうな顔で袖から手を離し、歩き出す。それが何故か少し残念だと感じてしまい

「あっ、高杉っ!!」
思わず呼び止めてしまった
呼び止めたのはいいが、言うこともなく沈黙がまた訪れる

「土方…今初めて俺の名前を呼んだな」
「え?」
「今までお前だのテロリストだの犯罪者だの距離を置いた呼び方しかしなかったってのにな」

よっぽど嬉しかったらしく、満足げな顔をして駆け寄ってくる
やっぱ…犬みてぇ

「やっぱ明日も会いにきていいか、土方」
「ちょっ、離せ」

駆け寄ってきた高杉に抱き締められる。耳を赤くした顔を隠すように頭を擦り付けてくる姿は、とても凶悪なテロリストのものとは思えない

「明日もお前の顔が見てぇ」

顔を上げずにそっと呟く
今、高杉が俺の顔を見ていなくてよかった。きっと赤い顔をしている

「…好きにしろ」

小さい声で返事をすると、それに応えるように高杉の腕がきつくなった

どうやら俺は、こいつに絆されたらしい…

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