刹那の奏法
□music20 譲れない感情
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「なんかごめんね、紫彗ちゃん」
「いえ。それより、私に構わずバスケしてください」
「あ、うん……」
「あ、そうだ。良かったらここでちょっと弾いていてもいいですか?」
「もちろん!あ、でも帰るときは声かけてね」
「はい」
そう言うと、火原先輩とお兄さんはフェンスの中に入り、3or3が開始された。
最初は少し見ていたけど、私も少し慣らそうとヴァイオリンを取りだした。
軽く調弦をして奏で出す。
最初は調子良かったんだけど……
「あ、れ……?」
弾いている最中でA線が緩み、掠れた音が響き渡った。
「どうしたの?紫彗ちゃん」
滅多にしないミスをしたからだろうか……いったんバスケを中断した先輩が私の方に駆け寄って来る。
「いえ、ただA線が……」
あはは、と軽く笑い先輩にヴァイオリンを見せる。
「演奏中に弦が緩んじゃったの?セレクションも近いし、弦変えた方が……」
「逆なんです」
「逆?」
「はい。さっき楽器店の帰りって言いましたよね?セレクションも近いのでメンテナンスも兼ねて弦を全部張り替えてきたんです」
それで、新しく張り替えた弦の調子を知りたかったのと、早めに慣れておこうと思って、家に帰るまでにどこかで弾いておきたくてこの公園に来て……
「だから、張り替えたばかりだからなんだと思います。緩んじゃったのは」
ニッコリと笑ってそう言うと、火原先輩も笑って「それなら大丈夫だね」って言ってくれた。
「和樹」
そんな会話をしていると火原先輩のお兄さんに声をかけられ、振り向くとお兄さんとお友達のみなさんがコートの外にいた。
「俺、用事を思い出したから帰るわ」
「え…」
「俺も」
「じゃーなー」
そう言いながら去って行くみなさん。
「まだ勝負ついてないよー!」
火原先輩がそういう中、お兄さんが火原先輩に向かってバスケットボールを投げる。
先輩がキャッチしたのを確認すると、お兄さんたちは歩いて行ってしまった。
私たちはただ、お互いの顔を見て笑い合うしかなかった。
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