紅涙の欠片
□Piece17 蘇る真の記憶
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「……すみません、柚稀」
「骸?」
「僕を……許してください」
そう言って、骸はギュ…っと私を抱きしめた。
いつもより強く、そして…壊れそうなほど優しく。
「僕たちは、僕たちの勝手な都合で貴女の未来を捻じ曲げてしまった……そしてそれが……貴女を苦しめてしまった」
「骸…?言っている意味が良くわからないんだけど…」
私を抱きしめる手が強くなった。
骸の表情は見えないけど……多分……
「目を覚ました貴女は、このことを覚えていないでしょうけど……全部、思い出していると思います」
「…全部?」
「はい、全部です。14年間、全て」
…この骸のひとことが、何かひっかかった。
でもそれは糸くらいの細さで……私は、何にひっかかったのか、全く気付かなかった。
そのまま、骸は話を続ける。
「柚稀。これだけは覚えていてください」
「……何?」
「僕たちは貴女に傍にいて欲しかった。ただ、それだけだったんです」
「……え?」
「貴女の未来を捻じ曲げてでも、傍にいてほしかったんです」
「骸?」
「それが、まさかあんな結果になるなんて思わなくて……!」
骸が、何を言っているのかイマイチよくわからない。
でも、確かにコトリと心に響いた。
「……大丈夫だよ、骸」
「……柚稀?」
「その…良くわかんないんだけど、私は骸のことも千種のことも犬のことも…みんな大好きだから嫌いになったりなんかしない……と思うよ?」
私がそう言うと、骸は目を見開いて……私を見据えた。
そして、一瞬でいつもの表情に戻した。
「……大好きですよ、柚稀」
「私も大好きだよ。骸」
ニッコリと微笑んでそういう。
するとその瞬間。
「柚稀っ!」
……どこからか、私を呼ぶ声が聞こえた。
これは骸の声じゃない。
じゃあ……誰の声?
「柚稀!」
「……きょ、や……?」
無意識に、そう呟いた。
それを聞いた骸は少しだけ悲しそうな表情を浮かべ……また、私を見据えた。
「時間ですね」
「……時間?」
「はい。行きなさい、柚稀」
「行くってど……」
どこへ?と聞こうとした瞬間……ドン、と骸に突き飛ばされた。
「む、くろ……?」
突き飛ばされた私は体勢を崩して……そのまま、蓮が浮かぶ湖の中へと落ちていった。
「今度は本物の世界で、逢いしましょう。必ず……迎えに行きます」
完全に落ちる直前に、骸が呟いた。
本物の、世界で?
ここで、この世界での私の意識は完全に途切れた。
「……バカですね、柚稀も。柚稀の『好き』と僕の『好き』は一緒じゃないでしょう?全てを思い出しても……貴女はまた、今みたいに『好き』と言ってくれますか……?」
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