刹那の奏法

□music03 言葉の重要度
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『えー…音楽コンクールの参加者は音楽科会議室に集合するように…』


突然、校内放送が流れる。

あんまりやる気のなさそうな声だったな……というのは置いておいて。

今香穂と一緒にいないため、連絡を取ったらに先に行っててと返事が返ってきたため、私は音楽科の会議室へと向かい歩き始めた。





music03 言葉の重要度





「…今の、なに?」


会議室に近づくと、昨日の音楽科3人とすれ違った。

すれ違ったというよりは、私には目もくれないで走り去って行ったという方が正しいけれど。

会議室の前では香穂と火原先輩と…柚木先輩がなにやら話をしていたから、あの3人にまた何か言われたんだろうなと容易に察しがついた。


「あ、遅いよ!珠葵」


私に気付いた香穂が私に手を振りながら言う。


「ごめん、ごめん」


軽くそう言いながら香穂と一緒に会議室に足を踏み入れると、そこには参加者であろう人たちが揃っていた。


「よし、全員揃ったな」


私たちが会議室に入り全員揃ったのか、金澤先生がそう言う。


「顔合わせくらいしたほうが良いって校長に言われてな。じゃあ…そっちの端から自己紹介」

「えっ…あ、1年B組冬海笙子。クラリネット専攻、です……」


そう言ったのは、私と香穂以外で唯一の女の子。

消極的な性格なのかな?というのが私の第一印象だった。


「1年A組志水桂一です。専攻はチェロです」


彼は、のんびりとしたトーンでそう言う。

初めて見る顔だけど、初めて会った気がしない。

どこかで会ったことあったかな…なんて考えていると、自己紹介が進んでいく。


「3年B組火原和樹。トランペット専攻。よろしく」

「同じく3年B組の柚木梓馬です。専攻はフルートです」


このふたりは、十分すぎるくらいに名前と顔は一致する。


「2年A組月森蓮。専攻はヴァイオリン」


きっぱりと名前と専攻だけを言った彼は、この前2年A組の前で会った人で。

やっぱり私、この人のことを知ってる気がするんだけど……気のせい、じゃないよね?

そう思いを巡らせていると、一瞬会議室に沈黙が訪れる。

ここで初めて、次が私の番だと悟った。


「2年2組紫彗珠葵。楽器は、ヴァイオリンです」


私も前の人たちに倣って簡単に自己紹介をする。

私が言い終わっても隣にいる香穂が何も言わないので、トントンと肩を叩くと、香穂も次が自分の番なんだと気がついたみたいで。


「あー…2年2組日野香穂子…ヴァイオリン、です」


全員が自己紹介を終えたのを見てから、金澤先生が口を開く。


「よーし。以上7人だな。コンクールは4回のセレクションに分けて行われる。各セレクションごとに順位をつけ、最終的に総合優勝者を決めるって仕組みだ。
各セレクションではテーマが与えられる。選曲は自由だがそのそのテーマを踏まえて選ぶこと。つまり…曲の解釈も重要だということだな。
しかしだな…順位云々の前に音楽に対する理解を深め、何より楽しむことを忘れないで望んで欲しい」


4回の、セレクション…か。

コンクールが、遂に始まっちゃうんだね。

ここまで来たんだ…もう後戻りは出来ない。

だったら、私は前に進むだけ。

先生が話したいことを話し終えたのか、解散と言い、何気なく廊下に出ると…私の目の前を、一筋の光が通り過ぎた。

あの光は、もしかして……

直感でそう思った私は、取り合えずその光を追いかけることにした。


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