刹那の奏法

□music13 色褪せた写真
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「信じるもの…か」


冬海ちゃんの家の別荘から帰った2日後、湊にテーマが発表されたことを伝えた。

合宿最終日に金澤先生から2セレのテーマを告げられたはいいけど……イマイチ実感が湧かない。


「またえらく抽象的だよね……第2セレクションのテーマも」

「だよねー…」 

「それで?曲は決めたの?」

「うん。サラサーテのツィゴイネルワイゼンにしようと思ってるんだけど……どうかな?」

「いいじゃん!じゃ、早速練習して明日の放課後、とりあえず合わせようか?」

「うん!」





music13 色褪せた写真





放課後、湊と練習をしようと音楽棟の練習室に足を運んだんだけど……


「見て見て、あの子でしょ?紫彗さん」

「次のセレクションで月森くんのご両親と一緒に紫彗さんのご両親もご招待されてるんでしょ?」


…全部聞こえてるよ、って言いたいけどここは我慢だ。

実はちょっと前にお母さんから手紙が届いた。

その内容が、「美沙たちと2セレを見に行くからね」というものだった。


「月森くんのお母さんって確かあの浜井美沙さんでしょ?」

「あぁ、あの天才ピアニストの!」

「紫彗さんのお母さんも浜井美沙と同じくらい有名な天才ピアニストの紫彗有羽でしょ?」

「じゃあ父親はあの紫彗晶?」

「あぁ、あのヴァイオリニストの!」

「どっちもすっげー……特別待遇かよ」

「ねぇねぇ、月森くんのお父さんって何してる人だっけ?」

「確か楽器会社の社長さんじゃなかった?」

「あと、元・ヴァイオリニスト…だったよね?」

「うわー…凄すぎ!」


どこに行ってもこんなヒソヒソ話ばっかり。

別に私のことをどう言われようと構わないけど…両親のことは悪く言わないでほしい。

天羽さんにも散々質問攻めにされたけどさ……私なんて、自慢の両親の足元にも及ばないんだから。


そんなことを思いながら予約していた練習室に入った。

するとほぼ同時くらいにメールが届いた。

メールの差出人は……湊。

……このタイミングでメール…なんか凄くいやな予感がするんですけど……


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