刹那の奏法

□music15 忘れてた言葉
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後で聞いた話なんだけど、信号無視で突っ込んできたトラックは運転手の居眠り運転だったらしい。

運転していた人は凄く反省していて、壊れたヴァイオリンの修理費も壊れた鞄(中身の衣裳や楽譜は無事だった)も弁償してくれる、とのことだった。

でも……それじゃ、遅い。 

私は、このコじゃなきゃダメなのに……

出来るのなら、このコンクールを…ずっと、このコと頑張っていきたかった。

というか、このコを失うなんて……今まで一度も、考えたことなんてなかった……





music15 忘れてた言葉





「い…いやぁぁぁぁっ」

「落ち着け、珠葵!」

「りょ……ど、しよ…どうしたら……」

「……珠葵!」


ヴァイオリンを目の前に、クラリと眩暈がした。

そんな状態の私の肩を梁太郎が支えてくれるけど……震えが止まらない。


「鞄、持ってきたが……大丈夫か?紫彗さん」

「つき、も…りく……」


今にも泣きそうな私を目の当たりにしたからか、月森くんがなんとも言えない表情を浮かべて、ギュッと手を握ってくれた。

それでも……一向に震えが止まる気配がない。


「土浦?月森くん……?それに紫彗ちゃん?どうしたの!?」

「火原、せんぱ……」


この情景を目の前に、火原先輩が慌てて駆け寄ってきてくれた。

そして、私のヴァイオリンを見てこの状況を理解したのか……火原先輩もなんとも言えない表情を浮かべた。


「ヴァイオリン……どうしたの?」

「ヴァイ、オリン……」


火原先輩にそう言われた瞬間、何故か涙が溢れ出した。


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