刹那の奏法
□music16 前に進む覚悟
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『只今より星奏学院学内音楽コンクール第2セレクションを開催します。演奏者1番、普通科2年5組 土浦梁太郎くん。ショパン作曲 幻想即興曲』
今私たちがいる練習室にも、アナウンスが響き渡った。
そして、そのすぐ後に聞き慣れた梁太郎のピアノが聞こえ始めた。
music16 前に進む覚悟
「…始まっちゃったか……」
まだ一度軽く弾いて、湊と1回合わせただけなのに……本当に時間が足りない。
私自身だってまだ完璧な状態に戻れていないのに……
「珠葵、ラスト1回になると思うから……集中しよう」
「……うん」
正直、みんなの演奏を聞いておきたい……
でも、集中しなきゃ。
湊だってみんなの演奏を聞きたいと思うのに、私に付き合ってくれてるんだから。
「珠葵、気をつけて。晶さんのヴァイオリンの弦、珠葵のより少し強く張ってあるから重音が思ったより響いてないよ」
「わかった…気をつけるよ。他のとこは大丈夫?」
「大丈夫。だからとにかく重音だけ気をつけて」
「うん」
湊が正確なアドバイスをくれる。
そのおかげで、ピンポイントで直せるから……本当に助かる!
『演奏者5番、音楽科1年A組 志水桂一くん。サン=サーンス作曲 白鳥』
「…桂ちゃんの演奏が始まるか……」
「そろそろ戻ろうか?珠葵」
「…そうだね。間に合わなかったらシャレにならないもんね」
最後に、一番引っかかった重音のところだけもう1回弾いて、ふたりで舞台裏に戻った。
舞台裏に戻ると、丁度梓馬が舞台にあがるところで…みんながなにやら慌しそうにしていた。
それに香穂と梁太郎と火原先輩の姿がなかった。
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