刹那の奏法

□music18 安らぎの星空
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「蓮くん、本当にありがとね。しかも楽譜探しまで付き合ってもらっちゃって」


欲しかった楽曲の楽譜がいくつか入った袋を手にしながら、隣を歩いている蓮くんを見据えてそう言う。


「いや、俺も欲しい楽譜があったし、探しに行こうと思っていたところだったから」


そう言った蓮くんもさっき私と同じお店で購入した楽譜がいくつか入っている袋を手にしている。

お昼までと今とで違うのは……お昼までは私の手にあった壊れてしまったヴァイオリンが、今は私の手の中にない、ということだろうか。





music18 安らぎの星空





お昼に蓮くんと合流して、まず蓮くんがお世話になってるという職人さんのところへ行って来た。

電車とバスを乗り継いで、木々が生い茂る道を抜けた先に、1件のお洒落な家があった。

そこはヴァイオリン工房で、中には真剣な表情でヴァイオリンと向き合っているヴァイオリン職人の中田さんがいた。

蓮くんのおじい様の代からお世話になっているらしく、とても素敵な人だった。

中田さんにヴァイオリンを見せたところ、このくらいの傷ならちゃんと直ると言われた。

あまりの嬉しさに、その場にへたり込んでしまい、蓮くんにも中田さんにも心配させちゃったけど。

ヴァイオリンの修理には時間がかかるということはわかってるけど、セレクションのことを話したら間に合うように極力手を尽くす、って言ってくれた。

そして、次のコンクールに間に合うかはわからないけど、修理が終わったら連絡をくれるとも言っていた。

それを聞いて、本当に本当に嬉しかった。

だって、あのコは私の大切な大切な相棒なんだから。

でも…………


「それにしても吃驚したね」

「何がだ?」

「まさかお父さんとお母さんもお世話になってたなんてね」


実は、お父さんとお母さんも中田さんにお世話になっていたらしい。

だから結局蓮くんに紹介されてもされなくても中田さんのお世話になってたのは間違いないんだろうけど……


「……そうだな。すまない、余計なことをしたみたいだな」

「そんなことないよ!お父さんとお母さんがお世話になってても関係ない。蓮くんが紹介してくれたってことに意味があるんだから!」

「……そうか」

「うん、もちろん!」


ヴァイオリン工房から戻ってきて、欲しい楽譜があると言った私に蓮くんが付き合ってくれて、大きな楽器屋さんに足を運んだ。

何件か見て回って、お互いに欲しかったものを全部そろえた頃には、大分日が沈んでいた。


「わ、もうこんな時間!」


時計を見て、改めて吃驚する。

時間って本当に過ぎるのが早い。


「これからどうする?どこか喫茶店にでも入る?それとも今日はもう帰る?」

「……折角だから、寄って行きたいところがあるんだが…」

「……え?」


蓮くんのことだから今日はもう帰ろう、とか言うのかと思ってた。

だから、つい一瞬呆けてしまった。


「息抜きがてら、一緒に行かないか?」

「行く!」


私がそういった瞬間、淡く微笑んだ蓮くんと目があった。

だから私もこれでもか、ってくらいの笑顔を浮かべてみた。


「ここからだと少し歩くことになるが構わないか?」

「うん、大丈夫だよ」

「では、行こうか」


街中のアーケードの下で立ち止まっていたけど、目的地が決まり、お互いに肩を並べて歩き出した。



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