刹那の奏法

□music06 変わらぬ音色
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「香穂、おはよ」

「あ、珠葵!おはよ」


朝、校門付近で香穂に会い、そのままふたりで肩を並べて歩き出した。

ふたりで、同じ悩みを抱えながら。





music06 変わらぬ音色





「ねぇ珠葵、伴奏者見つかった?」

「まだ……香穂は?」

「私も……」


はぁ、とお互いに溜息をついた。

昨日演奏曲は決めたけど……伴奏者のあてが全くない。

だけど、そろそろ決めないと期限的にもマズい。


「どうしよう…冬海ちゃんにでも頼んでみる?」

「月森くんは…頼みにくいよね」

「…確かに」


本気で冬海ちゃんに頼んでみようかな?と思いながら歩いていると、ふと見慣れた2人の姿があった。


「紫彗ちゃん!日野ちゃん!おっはよー」


向こうの方から手を振る火原先輩と……火原先輩の隣を歩く梓馬の姿が目に入った。


「「おはようございます」」

「ふたりしてどうしたの?何か心配ごと?」


火原先輩が香穂に不安そうに声をかけ、その問いに香穂が呟くように答える。


「コンクールのことで…伴奏が出来そうな人が私たちのまわりにいなくて」

「そうか…普通科で探すのは難しいよね」


火原先輩がそう言う。

すると、それを聞いた梓馬が笑顔で尋ねた。


「よかったら紹介しようか?僕の伴奏をやりたいって申し出てくれた子が何人かいるのだけれど」

「どうしよう…お願いしたいけど年上だとやりにくいよね?…珠葵」

「そうだね…できれば同学年の方がありがたいよね」


私が香穂にそう返すと、香穂はそっと私の耳元で呟いた。


「それに、柚木先輩の伴奏がやりたい人を紹介してもらっても…気まずいよね?」

「…言えてる」


クスクスと、ふたりで軽く笑った。

そして、自分で頑張ります、と告げて梓馬と火原先輩と別れた。

そのあとすぐ、音楽科の……1年の子が私たちの前に歩み寄って来た。


「日野先輩!」

「え…私?」

「はい!初めまして、私音楽科1年の庄司恵と言います。あの…伴奏者が決まっていないのでしたら是非私にやらせていただけませんか?」

「…え?本当?」

「はい。なんらかの形で私もコンクールに関わりたいんです」


彼女はニッコリと笑顔で香穂に話しかける。

香穂はそれを聞いてお願いしたけど…私にはどうも納得がいかない。

確信はないけど、きっとなにか起こる……そんな気がしてしょうがなかった。


「…珠葵?どうかした?」

「え…どうもしないよ?それにしても香穂まで決まっちゃうとはね…あと私だけか」


はぁ、とさっきよりも大きく溜息をついた。

すると、後方の方から聴いたことのある声が聞こえた。


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