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□午前9時の、不安
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「見て見て、ツナ!」
「見てるって」
「すごーい!かわいー!わ、小さいっ!」
「……ねぇ」
「ん?何か言った?」
「恥ずかしいからやめて」
「…え?」
ツナの呆れたような声を聞いて振り向くと…溜息をついているツナと、微笑している子供連れの女の人の姿が目に入った。
「…ツナのせいで笑われちゃったじゃん」
「俺のせいじゃないだろ?」
「だって……あ、あれかわいいっ!」
ツナの横をすり抜けて、真後ろにあった大きな水槽に両手をピッタリつけて、覗き込む。
そこには、一面に自由に泳ぐ魚たち……
「……いくら念願の水族館に来たからって、数歩歩くたびにガラスに張り付いてたらキリないだろ?」
「そうだけど…あ、見て見てツナ!」
「お前…わかってないだろ。俺の言っている意味」
「わかってるよ」
「(これは絶対わかってない…)」
ツナの言葉を軽く受け流しながらガラスの中を覗き込む。
「やっぱりいいなー水族館は」
そんな風に呟く私に、ツナはまた大きく溜息をついた。
ずっと水族館に行きたいって言っていた私。
何回も何回もツナに頼み込んで…やっと連れてきてもらった。
だから今日1日は思い切り楽しむって決めたんだ。
「…あ、もうすぐ9時になるけどいいの?」
「え?」
ツナのひとことに、くるりと振り向き、視線を合わせる。
「9時……何かあったっけ?」
「お前なぁ…入り口の掲示板にイ「あ!イルカのショーだ!」
「思い出した?……で、行くの?行かないの?」
「行く!」
「はいはい」
呆れるツナを引っ張る形で、イルカのショーが行われる会場に急ぐ。
「わぁー凄い人!」
「…はぐれるなよ」
「大丈夫だって」
会場に辿り着き、あたりを見まわしながら数歩前を歩くツナについていく私。
はぐれたら一貫の終わりだなーなんて思いながら歩いていると、目の前を大勢の子供たちが通り過ぎた。
どうやら遠足か何かで来ているらしい。
その光景を淡く微笑みながら見ていてふと顔をあげると……
「……あれ…ツナ?」
目の前にいたはずの……ツナが、いない?
「え、ちょっ……嘘、でしょ?」
少し焦りながら、周りを見渡すけど…どこにもツナの姿が見当たらない。
パニックになった私は、思わずイルカのショーが行われる会場を飛び出した。
「ツナーっ……どこ?」
慌てて軽く走りながら彼を探す。
「どうしよう……見つからない」
この人混み…もしかしたら、見つからない?
そう不安になった途端、涙が滲んできたけれど、次の瞬間急に誰かに腕を引っ張られた。
とっさに振り向くと…そこには息を切らしたツナの姿があった。
「……見つけた」
「ツナ……ごめんねっ」
「俺も、ごめん。でもほんとに…良かった」
グイっと引っ張られたかと思うと……思い切り抱きしめられた。
「ツ、ナ……?」
私が呟くと…ツナは慌てて私を離し、立ち上がって……手を差し出した。
「ほら、行こう」
ツナは頬を淡い紅色に染めて…そっぽを向いて呟く。
「……うん!」
手を差し出してくれたツナは…今までで一番、かっこよく見えた。
「どうかした?」
「ううん、なんでもない!」
私は差し出されたその手を握った。
午前9時の、不安
(そういえばイルカのショー、始まっちゃったね…)
(そうだな)
(どうしよう…途中から見る?)
(次回の13:30〜のを見ればいいだろ?それまでの暇つぶしなんていくらでもできるし)
(そうだね!)
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