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□午後14時の、苦笑
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「ど、どうかな?」

「うーん…もう少し強弱つけたほうがいいかな?」

「えっと…どの辺?」

「3小節目のあたりかな?」

「うん。もう一度やってみる…!」


はい、と火原くんから渡された楽譜を受け取り、楽譜を譜面台に置いた。

そして、ヴァイオリンを構え、さっき言われた3小節目を特に気をつけながら奏でる。

一部分を弾き終えて一息つくと、火原くんがまたアドバイスをくれた。


「今の良かったよ!」

「ほんとに?」

「ほんとだよ。それじゃ、次いこうか」

「うん!」


そう返すと、また火原くんに楽譜を渡した。

実技試験が近づいてきて、家での練習に行き詰っていた私は気晴らしにと公園に練習しに来ていた。

そこで同じクラスの火原くんと会って…今、課題曲を聴いてもらってる。

楽器も違うのに的確なアドバイスもくれて……流石だな、とすら思ってしまう。


「このパートは大丈夫だよ」

「本当?」

「うん。でも強いて言うと…ところどころ半音ずれるかな?」

「じゃあしっかり直さなくちゃ…」

「でも全体的に良いよ。1回通してみてもいいんじゃないかな?」

「それじゃ、初めから弾くね」


そして一息ついて課題曲を奏で始めた。

課題曲……バッハのラルゴを。

ラルゴを弾き終えると、火原くんが拍手をくれた。


「大分いいよ!あとはこのチェックした半音とスラーを直せばバッチリだよ」


そして、チェックを入れてくれた、コピーした楽譜を手渡してくれた。

半音やスラーのところどころに丸がついていて、どこを直せばいいか一目でわかる。


「ありがとう、火原くん!凄く助かった!」

「その調子だよ!きっと大丈夫だよ、実技試験」

「そうだといいけど……」

「そうだ!折角だし一緒に何か演奏しない?」

「いいね!やろっ」


火原くんの提案に乗り、一緒にデュエットすることになった。

火原くんの掛け声でお互いに奏で出す。

かなり良いかんじで途中までは奏でていたんだけど…そこに、少し強めの風が吹いた。


「あ!」


途端に火原くんが演奏をやめて叫ぶ。

何事かと思い、一旦ヴァイオリンを置くと……さっきの風で譜面台に置いておいた楽譜が宙を舞っているのが見えた。


「(なんでしっかり止めておかなかったんだろう……自分!)」


次の瞬間、私も火原くんも楽器を置き楽譜を追って走り出した。

だけどそれもむなしく……


「あっ…」


ぱしゃっ、っと楽譜が公園にある噴水の水面に落ちた。


「あっちゃぁ……」


私たちはお互いに顔を見合わせて、笑うしかなかった。





午後14時の、苦笑

(ごめんね、折角チェックしてくれたのに)
(それは良いけど…楽譜濡れちゃって大丈夫?)
(それは大丈夫。家に戻ればあるから)
(なら良かった)




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