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□午前10時の、迷宮
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「……さーて、どうしようかなぁ…」


今、私がいるこの場所は四方八方が樹木に覆われている。

ただひとつ、目の前の道を抜かすと、の話なんだけどね。


「バカやったな……へんな意地張るんじゃなかった」


ここは遊園地の巨大迷路の中。

一般的に巨大迷路はコンクリートで作られていることが多いらしいけど、ここは樹木を並べて作ってある。

その気になればこの樹木を掻い潜って行けばいいが……流石にそんな勇気は私にはない。

……というかこの年でそんなことしたら恥ずかしいにも程がありすぎる。


「あ、ここさっきも通った」


はぁ、とまた大きく溜息をついた。

この迷路に入ってどのくらい過ぎたんだろう……

すっかり自分が方向音痴だということを忘れてたよ。


「あーぁ…梁はもうとっくにゴールしちゃってるんだろうなぁ……」


負けた方がお昼を奢る、なんて賭けしなきゃ良かったとつくづく思った。


「……意地張らずに一緒に行けば良かったな」


梁が「一緒に行くか?」って聞いてくれたにも関わらず「ひとりで大丈夫よ」と言って、別々にクリアしようとしたのは紛れもなく私だ。

迷路くらいなんとかなるだろう!という考えが甘かったとつくづく思わされた。


「……梁……」


ポツリ、と呟いたのは彼の名前。


「……助けて」


か細く呟いた私の声は届かないとばかり思っていたけど……


「だから言っただろ?一緒に行くか?ってな」


後ろから声がして、慌てて振り向くと……そこには余裕の表情で立ってる梁の姿。


「…え?りょ、梁っ!?」

「そんなことだろうと思ってたぜ?なんたってお前、極度の方向音痴だもんな」


そういいながら笑顔を浮かべる梁。

今、さらっと酷いこと言ったけど……この際、そんなのはどうでもいい!


「梁っ!」


梁の顔を見て安心したのか……私は思い切り梁に抱きついた。


「ど、どうしたんだ?」

「良かった……私、このままここを出られないんじゃないかと思ってた」

「んな訳ねぇだろ?仮にももしそうなら……何度でも俺が助けに来てやるよ」


そう言うと、梁はポンポンと私の頭を撫でてくれた。 

それが、凄く心地良かった。


「ほら、早く行こうぜ」


梁から離れた私にスッと右手を差し出してくれた。


「……うん!」


私はその梁の手を握って……ふたりで歩き出した。





午前10時の、迷宮

(あ、ねぇ梁!私お昼奢らなくていいよね!?)
(……なんでだ?) 
(だって梁、今ここにいるじゃん。だからゴールするの一緒でしょ?)
(あぁ……俺、これで2周目) 
(……は?)
(ゴールしてから随分待ってもお前がゴールしそうにもなかったから…とりあえずもう1回入ってわざわざ探したんだぜ?)
(……すみませんでした。是非是非奢らせていただきます)




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