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□午前5時の、傷心
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「泣くな」
ざぁぁぁぁ、と雨が降る。
お世辞にも小降りとはいえない雨は、私と彼と…彼女を濡らしていった。
「……泣いてなんか、ない」
私は、彼女の傍で俯きながらそう呟いた。
「意地張るな。今意地張ったってしょうがねぇだろ?」
私の一歩後ろで立ったままのスクアーロは私にそう言う。
声音は変わっていないけど、表情は多分……
「意地なんか……」
張ってない、って言おうとしたけど…声が出ない。
声の代わりに出るのは、涙。
冷たい雨とは裏腹に温かい涙が頬を伝う。
「泣きたいときは泣けばいい」
「………」
「俺が受け止めてやる。だから…思い切り泣け」
スクアーロの一言に……私の中で何かが弾けた。
「………スクアーロっ」
抱きかかえていた彼女を優しく離した。
そして、私は一瞬で彼の方に振り返り、思い切りスクアーロに抱きついた。
そんな私を、スクアーロは何も言わず抱きしめてくれた。
「わたし、の……私のせいで…!」
「お前のせいじゃないだろ?」
「違う。あれは……明らかに私のミスだった……明らかに私のせいだった!」
彼女が、死んだ。
彼女は私の部下だったけど、それと同時にパートナーであり……親友、だった。
「あのとき私が油断、しなきゃ……っ」
今回の任務は元々私とスクアーロで担当してたものだった。
彼女はそんな私たちをサポートしてくれていて、いざ出発となると私とスクアーロの護衛という名目で一緒に来てくれた。
順調かと思っていた任務。
実際楽勝だったし、相手も決して物凄く強いとはいえなかった。
でも………
「危ないっ!」
気づいたときは、もう遅かった。
瀕死状態の敵が、残った力を振り絞って銃を私に向けたのだ。
彼女がそれに気づいて声をあげながら私を庇ったのと、敵が銃を撃ったのはほぼ同時で………
「良かっ、たぁ……無事、で」
彼女は、途切れ途切れにそう呟いた。
私を庇ってせいで致命傷を負った彼女を抱きかかえる私。
私の瞳からは涙が止まることなく流れ出す。
「な、んで……なんで私なんかを!」
「なんで、って…あなたは、私の大切な、親友……だからに決まって、いる、じゃない」
「だからって……」
「生き、て」
「……え?」
「生きて。大、好きよ………」
彼女はそう呟きながら軽く微笑むと……私の腕の中で息を引き取った。
「い、や……うわぁぁぁぁ……っ」
そのあとすぐ、スクアーロが敵を全滅させたけど…私はその場を一向に動かなかった。
冷たくなってしまった彼女の傍に佇んでいると……雨が、降り始めた。
最初は何も言わずにただその場にいてくれたスクアーロだったけど……流石に土砂降りの中、長時間そこにいたせいか私に声をかけた、と言うわけだ。
「気が済むまで泣け。俺はずっとお前の傍にいてやるから」
「あり、がと……」
どのくらい、スクアーロの腕の中で泣いていただろうか……
涙が止まった頃には雨も止んでいて、薄っすらと日が昇っていた。
午前5時の、傷心
(ごめんね、それから………ありがとう。スクアーロ)
(気にするな。それよりもう平気なのか?)
(まだ堪えてるよ。でも前に進まなきゃ怒られちゃうもんね、彼女に)
(……そうだな)
(頑張って訓練するよ。もう二度とあんなこと起こさないために、ね)
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