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□午前8時の、孤独
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「なんか、さみしいなぁ……」
ポツリ、と呟いた言葉は行き交う人々に消されていった。
朝の、この登校の時間がこんなにさみしいだなんて思ったことなかった。
というか、楽しすぎたんだ。
……1週間前までは。
「もう、1週間か…」
もう1週間。
彼と一緒に登校しなくなって。
彼と話をしなくなって。
いつから、とかは覚えていない。
ただ、気づいたら彼はもう私の隣にいた。
朝だって別に待ち合わせしてたわけじゃないのに毎日家の近くの交差点のとこで待っててくれて、学校ですれ違ったら必ずといっていいほど声をかけてくれた。
放課後だって、よっぽど予定が会わない限りはほとんど一緒に帰っていた。
最初はなんでだろう?って不思議に思ってたけど、それは本当に最初だけで……彼といるのは居心地が良かったしイヤだなんて思ったことはなかった。
それが恋心からなのか友達としてなのかは定かではなかったけど、とにかく彼の傍にいたい。そう思っていたのは確かだった。
「今更、気づくなんてね……」
当たり前の日常。
それが予告もなしに終わりを告げたのは約1週間前だった。
1週間前のあの日、彼はいつもの時間にいつもの場所にいなかった。
寝坊でもしたのかと思って少し待ってたけど、彼は一向に来なかった。
だから仕方なく学校に行ったら……グラウンドで友達と笑いあっている彼がいた。
そのときは用事があったのかな?としか思わなかったけど、校内で会っても言葉を交わすどころか声すらかけられなかった。
はじめは気のせいかとも思ったんだけど……徐々に、そんなことも言っていられなくなった。
―――彼は、明らかに私を避けている。
それを悟ったとたんに零れた涙。
皮肉なことに、ここで気づいてしまった。
私は、彼を好きだったのだと。
彼から話しかけてこないなら、私も話しかけない。
彼が私を避けているなら、私も彼を避けよう。
………この、気づいた思いに蓋をしてしまおう。
そう心に決め、もう数日が経った。
「おはよう」
俯いて歩いていたところに、声が降ってきた。
この声を、私が間違えるわけない。
「……加地、くん…」
「隣、良い?」
そう尋ねる加地くんに、私はただ頷くしかなかった。
しばらくお互いに何もしゃべらないまま歩いていたけど……ふと、加地くんが口を開いた。
「押してもダメなら、一度引いてみようと思ったんだ」
「……え?」
加地くんの突然の…しかも意外な言葉に慌てて顔を上げると、淡く微笑んでいる加地くんと視線が合った。
「キミが僕のことを友達以上には見てくれないとわかったから、一度距離を置いてみようと思ったんだ」
「……」
「でも僕には1週間が限界だったよ。これ以上キミと話せないのは耐えられない」
あぁ、加地くんの策略に見事ハマったな……と、加地くんの話を聞きながら思った。
それでも、怒る気など全く起きなかった。
むしろ、その逆の感情ばかりが私を支配していた。
「……ねぇ、加地くん」
「なに?」
「私、加地くんが好きになっちゃったみたい」
「!?」
表情をあまり変えずにさらりとそう言った私に対し、明らかに驚いてる加地くん。
だけど、次の瞬間。
「わ、ちょ「本当に!?」
ぎゅ、っと思い切り加地くんに抱きしめられた。
心なしか、加地くんの声は嬉しさを帯びている。
「うん、本当。加地くんの押してもダメなら引いてみろ作戦に見事に引っかかっちゃったみたい」
軽く笑う私の表情は加地くんに見えてないんだろうけど……更に強く抱きしめられた。
そんな加地くんを、本当に愛しいと思った。
午前8時の、孤独
(好きだよ)
(うん。私も)
(これからも朝一緒に行ってくれる?帰りも一緒に帰ってくれる?)
(もちろん。喜んで)
(本当に嬉しいよ!ありがとう)
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