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□午後23時の、終結
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「今までありがとね、跡部くん」
「……あぁ」
刻一刻と時が刻まれていく。
あと5分ほどで、今日が終わりを告げる。
普段ならなんてことはない。
だけど……今は、違う。
このまま時が止まってしまえばいいのに、と何回思ったんだろう?
「楽しかったよ。この1ヶ月間」
「俺もだ」
1ヶ月前、跡部くんとある契約を交わした。
1ヶ月前、跡部くんが1ヶ月間限定で私の恋人役を引き受けてくれたのだ。
「助けてくれてありがとね。本当に」
「気にするな。もともとそういう契約≠セったんだからな」
「そう、だよね……」
ちょうど1ヶ月前、私は他校の人に付きまとわれていた。
付き合えないと言えば言うほど、彼の行動はエスカレートしていって……最後なんか、完璧なストーカー状態だった。
それを友達と友達の彼氏に相談したところ、友達の彼氏と同じ部活である跡部くんを紹介された。
ストーカーを追い払うために1ヶ月間限定で恋人役を引き受ける=B
それが、私と彼の間で成立した契約≠セった。
その契約が成立したその日から、私の日常は色を取り戻した。
氷帝学園の跡部景吾。その名は絶大な効果を示したのだ。
跡部くんがきっぱりと言ってくれたお陰であの人も諦めたらしく、あれから一切私に付きまとわなくなった。
目的が済んでも、まだ契約まで日時があるということで、1ヶ月間本物の恋人として接してくれた。
初めは軽い気持ちからだった。
でも、一緒にいるうちにだんだん好きになっちゃって……
だけどこの気持ちを伝えることも出来ず、ここまで来てしまった。
「あと1分……」
「………」
時計の針は、59分をさしていた。
「今まで本当にありがとう、跡部くん。もう時間だから行くね、私」
「…………」
ガタン、と椅子を引いて立ち上がった。
そして何も言わない跡部くんに背を向けて歩き出した。
あぁ、これで本当に終わりなんだ……
そう思うと涙が出そうだったけど、必死で止めてた。
ホールの出口に差し掛かった瞬間、ホールの時計がメロディを奏で始めた。
日付が変わったんだ……
そう思った瞬間、不意に…彼に名前を呼ばれた。
もう呼ばれることがないかと思っていたのに。
ピタリと足を止めて振り向くのと彼に抱きしめられたのはほぼ同時で………私の頭が真っ白になったのは言うまでもないだろう。
「あ、とべく……「好きだ」
「……え?」
「好きだ。お前が好きなんだ」
跡部くんの抱きしめる手が緩む。
ふ、と顔を上げると…彼と目が合った。
彼の真剣なアイスブルーの瞳に、瞳が逸らせなくなった。
「確かに昨日までは偽≠フ恋人だったかもしれねぇ……でも契約は終わった。今からは……本物≠フ恋人として傍にいてくれねぇか?」
「わ、たしで……良いの?」
「お前じゃなきゃダメなんだ」
嬉しかった。
私がずっと欲しかった言葉。
それが今、届いた。
「私も、跡部くんが好き…大好きなのっ!」
私がそう言い放った瞬間、もう一度跡部くんに抱きしめられた。
さっきよりも強く、そして優しく。
「ずっと、俺の傍にいてくれ」
「はい」
そっと、誰もいないこの場所でお互いの気持ちを確かめ合うかのように口付けを交わした。
午後23時の、終結
(ねぇ、景吾。今更だけど景吾はなんで私の恋人役引き受けてくれたの?)
(んなのお前が好きだったからに決まってんじゃねぇか)
(!?)
(引き受ければお前の傍にいることが出来るし、更にお前を俺に惚れさせることも出来ると思ったからな)
(なにそれ……確信犯だったわけ!?)
(いや…お前が俺を好きになるかは賭けだったけどな)
(…………)
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