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□午前3時の、猶予
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「もはや一刻の猶予も許されないのよねぇ……」

「……何を言ってるのかな?」


私が右手を休めてそう呟くと、目の前に座ってる周助が少しだけ顔を歪めた。

歪めた、といっても周りの人が見たらいつもどおりニッコリと微笑んでいるんだろうけど。

そんな周助に気がつかなかったふりをして、私は続けた。

右手に握られたペンは、もう完全に動いてはいなかった。


「え、だってそうでしょ?っていうかもう寝たい……」

「それは僕の台詞だから。ほら、早くペン動かして!」

「……周助のケチーっ」


そう言いながらゴロン、と横になった。

隣で周助が何か言ってるけど無視しちゃおう。

だって眠くて眠くてしょうがないんだもん。

なんて思っていると耳元で物凄く大きな音がした。


「!?」

「あ、起きた?ほら、続き続き」


私が飛び起きると、当の周助は私の目覚まし時計を手にいつもの笑みを浮かべていた。

私の目覚まし時計のアラームの音はただでさえ大きいのに……それを耳元で鳴らされたんだ。

たまったものじゃない。


「ちょ…私の鼓膜が破れたらどうしてくれるのよ!」

「大丈夫。鼓膜はこんな音じゃ破れないよ」


ニッコリ、なんて効果音が似合うんじゃないかってくらいの満面の笑みを浮かべて、周助がそう言う。

忘れてた……周助はこういうヤツだった。


「ほら、早く続き」


周助は相変わらず笑みを絶やさずに机の上に広げられたテキストと参考書とレポート用紙を指差した。


「……ねぇ周助」

「なに?」

「今何時かわかってる?」


私は周助が手にしてる目覚まし時計を見ながら呟く。

すると周助は一瞬時計に目を落としてから、口を開いた。


「うん。3時過ぎたね」

「これじゃ明日の授業爆睡決定だね!」

「正確にはもう日付が変わってるから今日だけどね」

「………」


表情を崩さずにすかさずそう言い返す周助。

こうなったら……奥の手を使うしかない!


「……神様仏様周助様っ!」


ばっ、っと一瞬で周助の目の前に正座した。

そして土下座する勢いで頭を下げた。


「お願いいたします……写させてください!」


つまり……簡単に言うとこういうことだ。

明日…じゃない、今日が提出期限のレポート。

このレポートを出さなきゃ単位に関わるのだが、すっかりレポートの存在を忘れていて。

12時頃に周助が送ってきた「そういえばレポートもう終わってるよね?まさか忘れてないよね?」ってメールで初めてレポートの存在を思い出した、というわけだ。

こんな時間だし友達にも頼れないので家が隣の周助にレポートを手伝ってくれと頼み込んだ。

周助は呆れながらも手伝ってくれたんだけど、写しただけじゃ私のためにならないとか言って……アドバイスをくれつつも結局自分でやることになったんだけど……


「このままじゃ終わる見込みがないです!何でもしますので!」


お願いします、ともう一度言い、目線を周助に合わせると………


「しゅ、周、助……?」


周助は、これでもかってくらい怪しい笑みを浮かべていた。


「なんでもする……確かにそう言ったよね?」

「………言いました……言いましたとも!」


もうこの際どうにでもなってしまえ!

そう思いながら半ば自暴自棄になってそう言い放った。


「それじゃ……今週末僕とデートしない?」

「……え?」


ふ、と再度周助を見ると彼はニッコリと微笑んでいた。

もっと違うことばかり想像してたから……デート、という言葉に少しだけ拍子抜けた。


「僕、行きたいとこがあるんだ。付き合ってくれない?」

「もちろん良いよ!周助の行きたいとこ、どこにでも付き合うよ!」

「ふふ、ありがとう。はい、これ」


周助はそう言いながら、完璧に完成させたレポート用紙を差し出した。

私はそのレポートを受け取り、未完成だった私のレポートに正確な答えを書き込んでいった。


意地悪だけど、結局なんだかんだで最後まで付き合ってくれる。

そんな優しい周助が、私はやっぱり大好きだ。






午前3時の、猶予

(…………)
(…………)
(彼女はともかくとして不二まで爆睡とはね……)
(何があったかはだいたい予想つくけど……ねぇ)
(うん……確かに)





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