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□午後21時の、電話
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「もう21時、かぁ…」
21時は毎日、私にとって少し特別な時間だったりする。
いつもいつも仕事で忙しそうな彼。
応接室に行けば会えないこともないんだろうけど、いつ見ても机の上には書類の山。
だから、あえてしょっちゅうは会いに行かない。
その代わり、雲雀さんは毎日…きまって21時に電話をかけてきてくれる。
そこで普段会えない分、話をする。
最近は前と比べて大分会えるようになってきているんだけど……相変わらず、毎日のこの習慣は変わらずにいた。
でも1分、2分……と時間が過ぎていく。
雲雀さんが今まで時間を過ぎて電話をかけてきたことは……ない(時間より早いことはあったけど)。
ということは、原因はこの私、だ。
昼間、雲雀さんと話をしてるときにうっかり口を滑らせてしまったのだ。
雲雀さんとの約束を忘れてたとき、ツナくんたちと新しく出来たケーキ屋に行こうと約束をしたことを………
そのあとすぐ話題を変えたけど、雲雀さんの機嫌は悪いままで……
そして今に至る、というわけ。
いつも、電話が来るのが当たり前だったから…電話が来ないのがこんなに寂しいなんて………
だから私は思いきって携帯を開き、雲雀さんの番号を押した。
雲雀さんがかけてきてくれないなら私がかけるまでだ。
コール音が鳴り響き、少しもしないうちに電話が繋がる。
「ひ、雲雀…さん?」
電話は繋がったけど、雲雀さんは黙り込んだままだ。
「ねぇ、雲雀さんっ」
『………』
ひとことも、喋ってくれない。
雲雀さん、私のことキライになっちゃったのかな…?
そう思うと、急に涙が込み上げてきた。
「……ご、めんな…さい」
気付くと私は涙を必死で抑えながら呟いていた。
「ご、めん…ね……きょ……や」
『……っ』
それだけ言って、電話を切る。
雲雀さんは電話の向こうで何か言ってたかもしれない。
でも私はあえて何も聴かなかった。
否、怖くて何も聴けなかった。
「………っ」
頬を、一筋の涙が伝った。
その次の瞬間、急に後ろから誰かに抱きしめられた。
「ごめん……」
「ひ、ばりさん……?」
「僕が悪かったよ」
「ど、どうしてここにっ!?どうやって……」
私の問いかけに、雲雀さんは無言で窓を指差す。
開けていなかったはずの窓は、カーテンが風で揺れて。
「ま、窓から入ったの!?」
「それが一番…手っ取り早いと思ったからね」
……私の部屋は2階、のはずなんだけど……
「ね、雲雀…さん」
「何?」
「私のこと、キライになった…?」
「そんなわけないでしょ?もしキライになってたらここまで来たりはしないよ」
「…ほんと?」
「本当」
「―――っ…雲雀さん、大好きっ」
私はくるりと振り向き、雲雀さんに抱きついた。
「全くきみには負けるよ……今日だって本当は直接話をしようと思って下までは来てたんだけどね」
電話しにくかったところにきみから電話がかかってきたんだよ、と雲雀さんは続けた。
「ごめんね……雲雀さん」
「………名前」
「え?」
「さっき、呼んでくれたでしょ?名前。もう1回呼んでくれたら許してあげるよ」
改めてさっきのことを思い出す。
そしたら急に恥ずかしくなってきた……
多分今顔は真っ赤だと思う。
雲雀さんを見ると、淡く微笑んでいて。
「………恭、弥」
「やっと呼んでくれたね、僕の名前」
雲雀さん……恭弥はギュッと私を抱きしめた。
「大好き、だよ。恭弥」
「僕も。愛してるよ」
午後21時の、電話
(………何してるの?)
(きょっ、恭弥……!)
((数日後、ツナくんたちと新しいケーキ屋さんに行く途中、恭弥にバッタリ出会ってしまった私。このあとどうなったのかは………また別のお話))
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