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□午後17時の、報復
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「この子は俺の彼女なんだ。だから……」
彼のその言葉に、思考回路が停止する。
ちょっと待って、ちょっと待って、ちょっと待って!
状況が飲み込めない!
私が懸命に状況を飲み込もうと試行錯誤していると、目の前にいた彼は何やら気まずそうな表情でその場から去って行った。
何か言ってたみたいだったけど今の私にその言葉が頭に入るわけもなく。
ペタリ、とその場にへたり込むと現況である彼は満足そうな表情を浮かべ、私に一瞬微笑みかけてから去って行った。
「ゆき、むら…くん……?」
……何が起こったのか、まずは状況整理をしてみよう。
朝、放課後裏庭に来て欲しいという手紙を貰った。
半浮かれ気味な状態で1日を過ごし、放課後裏庭に行くと手紙の差出人であろう人がいて(面識はあまりないけど、学年内でも結構有名でかっこいい人だ)、告白されて……
なんて返事しようかと思考を巡らせた瞬間だった。
突然うしろから抱き締められて、この子は俺の彼女なんだと言われた。
そう言い放ったのは、学年…いや、学校中で知らない人はいないであろう、王者立海大のテニス部部長、幸村精市……
ここでやっと、さっき目の前で起こった状況を把握した。
私は、たいして面識もない幸村精市に、人生で初めての告白を邪魔されたんだ!
しかも、去り際に向けたあの満足そうな笑顔……あれは何!?
「私…何かしたっけ?」
記憶を呼び起こすけど、何かしたどころか幸村くんとまともに話したこともないんですけど……
それじゃ、さっきのは幸村くんの気まぐれ……?
だとしたら絶対許せない!
というかなんてあんなことしたのか聞かないと納得なんかできやしない。
「絶対幸村くんを問い詰める!」
そう決めて立ち上がり、彼がいるであろうテニスコートへと駆け出した。
思い立ったら即行動。それが私のモットー。
だから、なにがなんでも聞き出してやる!
テニスコートへの一番の近道を通っていると、丁度テニス部の部室の裏あたりに誰かいるのが見えた。
「幸村、私ね……」
きれいなソプラノの声が、聞こえた。
そしてその声は間違いなく「幸村」と言った。
慌てて振り向くと、そこには幸村くんと、女の子の姿。
恐らく、さっきの私と同じ状況なんだろう。
だったら……
「あの子には悪いけど、幸村くんに仕返しさせてもらう!」
私の脳裏にはそれしか浮かばなくて。
「好きよ。あなたが」
彼女がそう言い切り、一瞬沈黙が流れた。
その瞬間に、私はすかさず幸村くんと彼女の間に割って入った。
「悪いけど、彼の彼女は私なの!」
さっきとシチュエーションは若干違うけど、言っていることは多分同じ。
ちらりと幸村くんの方を見ると、彼は目の前の状況に唖然としていた。
これで、さっきの分の仕返しは出来た。
でも別に心の底から幸村くんへの告白を邪魔したかったわけでもないわけで……
「なーんて、」
嘘です。ごめんなさい。って言おうとした瞬間。
「今の言葉に二言はないよね?」
私の言葉を掻き消すように、彼がそう言い放った。
「……え?」
幸村くんを見るとニッコリと笑顔を浮かべていて、目の前の彼女を見ると彼女もまたニッコリと微笑んでいた。
「え、あ、うん…だから嘘です。ごめんなさい」
「え、なに?聞こえないなー」
「えっと、だから…」
「さっきの言葉に、二言はないね?」
「え、あ、その……」
「ふふ、今日からよろしくね、「彼女」さん」
目の前で笑いながらそう言う彼に、さーっと血の気が引いていくのが分かった。
午後17時の、報復
(あなたの性格なら間違いなく同じ状況で仕返しするだろうから、って精市に頼まれてね)
(え、ちょっと待ってください。それ、どういう意味ですか?あなたは幸村くんに告白してたんじゃ……)
(あら?私のこと知らない?)
(えっと……あ!テニス部のマネージャーさん!……確か彼氏いましたよね?つまり私は嵌められたのか……)
(当たり。でもきみのことが好きなのは本当だよ)
(………(今の笑顔にドキッとしたなんて意地でも言わないんだから!))
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