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□午前11時の、詐称
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「当たった…?」
郵便受けに入っていた1枚のはがきを見て、思いきりガッツポーズをした次の瞬間、大事なことを思い出し落胆する。
「どうしよう……」
このはがきは、私の大好きなアーティストのライブの当選通知。
ただ、問題なのは……高校生限定ライブ、ということ。
軽い気持ちで応募したんだけど…はがきにも、波線で高校生限定と書いてある。
現在中学3年生であり、お世辞にも高校生には見えないこの容姿。
さて、どうしたものか……
「お前さん、なにやっとるん?」
ふと聞き慣れた声がし、その方向に向くと制服姿のマサがいた。
「喜んだり、がっかりしたり……」
「ちょっとマサ、どこから見てたのよ」
「全部」
疑問符すらも浮かべずに、そう言うマサ。
わかってるよ、悪いのはマサがいるのに気付かなかった私だって。
「んで、どうしたん?」
「んとね……」
もう、ここまで来たら誤魔化すのもなんだと思い、ライブのことを話す。
話終わった後でマサが浮かべた表情を見た瞬間、あぁなんでマサに話してしまったんだろうと後悔したけれど、既に遅くて。
「それ、ペアチケットじゃな」
「……うん、そうだよ」
「日時は、再来週の土曜日の11時から、か……」
「まさか一緒に行ってくれる、とか?」
半分冗談でそう言う。
そんな面倒なこと誰がするか、と返って来ると思ってたのに、返ってきた言葉はそれとは正反対で。
「一緒に行っちゃる」
「……え?だってこれ高校生限定ライブ…!」
「まぁ、任せておきんしゃい」
そう言いながら、楽しそうに笑うマサ。
私としては、行けるならそんなに嬉しいことはないけど……
「任せて、いいのね」
「あぁ。心配することなか。俺がなんて呼ばれてるか知っとるやろ?」
「詐欺師、仁王雅治。…不本意だけど、今回は全面的に頼らせてもらうわ」
「その代わり、俺の言うことひとつ聞いてもらうからな」
ニヤリ、と笑いそう言うマサ。
…初めからこれが狙いだったわけね。
「いいわよ。聞ける事だったら聞こうじゃない」
「今の言葉、忘れるんじゃなかよ」
そう釘をさして、自分の家に向かって歩いて行くマサ。
こうなったら、とことん付き合ってもらって、付き合おうじゃないか!
そして、当日。
ライブが11時からなら家を9時に出よう、と言われたから、てっきり9時に迎えに来てくれると思っていた昨日までの自分に、喝を入れてあげたいです。
「おはようさん」
マサが私の部屋の扉を開けたのは、起きたばかりの7時30分でした。
「ちょ、マサっ!今何時か知ってる!?」
「7時30分」
「9時に来るって言ったじゃない!」
「違う違う。9時に家を出るといっただけじゃ」
しれっとそういうマサ。
……確かに、9時に迎えに来るとはひとことも言わなかったですよね。
「で、マサは何しに来たの?レディの寝起きを狙ったかのように」
「レディ?そんなんどこにおるんじゃ?」
「……出てって」
「悲しいのぅ…折角届けに来てやったっちゅうのに」
「……なにを?」
疑問符を浮かべてそう言う私の目の前に差し出したのは、立海高等部の女子の制服…?
「あんた、それどこで…!」
「姉貴のを拝借してきた」
制服のが高校生に見えやすいじゃろ、と言ったマサも良く見れば高等部の制服を着ていて。
「まさか勝手に借りて来たんじゃ…」
私がそう言った瞬間、視線をそらしたマサ。
あぁ、やっぱり勝手に持ってきたのか……
仕方ない、この件についてはあとで謝るとして。
「それにしてもこんなに早く来なくても…」
「ついでに、メイクやら髪のセットをやってやろうとおもったんじゃが…余計だったようじゃな。邪魔者は退散するぜよ」
「雅治さまっ!お待ちをっ!」
今にも去りそうなマサの服の裾を掴んで、そう言う。
マサはよく柳生くんと入れ替わったりするから、メイクの類はものすごく上手い。
たまにやってもらうけど、それはもうプロ顔負けで。
いつもは私から頼み込むのに、マサからやってくれるというなら…それを蹴る手はない。
ニヤリと笑ってマサが振り返ったということは、後に上乗せされるんだろうけど……それには気づかなかったふりをして、大人しくドレッサーの前に座る。
すると、マサは慣れた手つきでセットやメイクを始める。
あっという間に完了し、私がその制服に着替え、朝ごはんを食べ終えたら(何故かマサも一緒ん食べてたけど)丁度約束の時間で。
「お手をどうぞ、お嬢さま」
そう言われ、差し出された手を遠慮なく取った。
午前11時の、詐称
(……身分証明の確認、されなかったね。制服着てない人はされてたけど)
(もしものために学生証も作ったのにのぅ…)
(ほんと、マサには負けるわ)
(それ、褒め言葉として受け取っていいんか?)
(お好きにどーぞ)
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