夜空の虹霓
□Iris07 考査
1ページ/6ページ
「さ、始めるよ!」
目の前に広げられたのは、様々な参考書とノート。
見慣れた部室で、今日の放課後は勉強会が開かれようとしていた。
「まずは自分の苦手なのから。いまのうちなら解らないとこは教えるから申し出ること」
ちぃちゃんがそう言った瞬間、一部の人が明らかに嫌そうな表情をする。
それを、簡単に見逃すわけはなくて……
「赤点取らない自信があるならやらなくても大丈夫だよ」
と、ニッコリと笑顔を浮かべながら特定の人の方を向き、そう言う。
……そう、私たちは数日後に定期試験を控えているのです。
Iris07 考査
試験前は部室で勉強会が恒例行事になっいるらしく、レギュラーのみんなは否応なしに参加している。
なんでも赤点補習が夏休み開始時から始まるらしく、それがちょうどインターハイ直前になってしまうため、影響を与えないために勉強会を始めたのがこの恒例行事のはじまりらしい。
我が男子テニス部も、ちぃちゃんが所属している女子テニス部も既にインターハイ出場を決めていて、絶対に赤点だけは取るわけにはいかないしね。
「千紗都ー頼むーっ」
「はいはい」
開始直後にちぃちゃんの名前を呼んだのは、岳人くんとジローくん。
余談だけど、レギュラーメンバーは、殆どみんな頭がいいみたい。
忍足くんは医者を目指しているだけあって、毎回トップクラスには名を連ねるらしいし、宍戸くんも全体の三分の一の中にはいて、岳人くんとジローくんもだいたい半分くらいで、長太郎くん、日吉くん、樺地くんもそれなりには出来るみたい。
もちろん、みんな差はあれど赤点は回避しているらしい。
そして、いつもトップ争いをしているのが目の前にいる、跡部くんとちぃちゃんだ。
「いいのか?千紗都。自分の勉強は」
「大丈夫よ。それより、景ちゃんこそ勉強しなくていいの?」
「心配してくれてんのか?心配しなくても今回も主席は俺のものだけどな」
「今回こそは私がその場所を奪ってあげるわ」
バチバチ、と火花が散るこの会話には最初は驚いたものだけど、もう慣れてしまった。
部のみんなも同じらしく、完全にスルーの方向に持って行っている。
まぁ、私が慣れてしまうくらいなんだから、みんなは慣れるどころの話ではないのだろうけど。
話によると、ちぃちゃんはいつも数点差で跡部くんに負けて次席らしい。
中等部の頃から毎回試験は跡部くんが主席、ちぃちゃんが次席という結果に終わっているというから私としては驚きなんだけど。
「燐はどんな感じや?」
いつの間にか隣にいた忍足くんにそう問いかけられる。
目の前にはあまり進んでいない参考書。
「ん……微妙、かな?」
転入した頃は同じ学年と言っても教科書が違ったので、少し苦労したけどいまでは大分慣れた。
改めて聞かれると複雑だけど、今の私は本当に微妙としか言えない。
「微妙って言ったって、氷帝の編入試験に受かるくらいなんだから試験くらい余裕だろ」
これまたいつの間にか隣にいた宍戸くんにそう言われた。
氷帝の編入試験は結構難易度が高いらしく、それに受かるのはたいしたものだとみんなに言われたけど、あの頃の私は編入試験に落ちるわけにはいかなくて、学校に行かない代わりに家で必死に勉強してたからな……
なんて、今思うと苦い思い出なんだけど。
「ふたりも結構余裕でしょ?」
苦笑いしながら私がそう言うとふたり共言葉を濁すけど、顔には結構余裕だと書いてある。
ほのぼのとそう話していると、向こうの方で跡部くんとちぃちゃんによる、岳人くんとジローくんのための講義みたいなものが行われていた。
長太郎くん、日吉くん、樺地くんの後輩トリオは黙々と勉強をしている。
この変わらない光景に、少しだけ笑みを浮かべた。
.