紅涙の欠片
□Piece01 再会の新学期
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私には5歳までの記憶と9〜12歳のときの記憶がない。
両親の顔もわからないけど、近くには大切な友達がいてくれる。
ただ、それだけで良かったんだ。
だから、この平凡な日常が音を立てて崩れていくことにまだ気づいていないこの頃の私は……
とても、幸せでした。
Piece01 再会の新学期
「わ、きれい…!」
学校の校庭の端に聳え立っている満開の桜の木を下を歩く。
満開の桜の花びらはひらりと宙を舞い、地に落ちていく。
そっと両手を広げると、丁度1枚の花びらがその手の中に舞い落ちた。
「今日、いいことあるかも」
ふわりと笑顔を浮かべ、私は目的地である掲示板へと向かった。
今日は始業式。
中学生活の2年目が始まる日。
「あれ……隼人?」
朝に発表されるクラス分けを見るためか、掲示板の前にはたくさんの人だかりが出来ていた。
その中で見慣れた後姿を見つけ、彼の背中をポンと叩く。
「おはよう、隼人」
少し不機嫌そうに振り向いた隼人だけど、私の顔を見るなり少しだけ表情を崩した。
「早いな、柚稀」
「早くないって。証拠に…ほら、人がいっぱいで見られない」
目の前の人だかりを指しながら苦笑すると、隼人はそうだな、と相槌を打った。
「隼人はもう見たの?クラス分け」
「あぁ」
「どうだった!?」
「どうだった、って……言っていいなら言うけど、お前そういうのを自分で見ずに人から伝えられると怒るしな……」
語尾がだんだん小さくなっていったのは気のせいではないと思うけれど、その言葉がグサリと胸に刺さった。
……確かに、私はそういうのは自分で確認したい性質だけど…
「ほら、人が減ったから見て来い」
少し考え込んでいると、掲示板の前から人が減ったのか隼人が私の背中を押しながらそう言う。
「うん!」
ぱっと切り替えて、掲示板に貼られているA4サイズの紙に目を落とした。
「えっと……」
一番最初に目に入った欄から見ていくと、すぐに見つけた自分の名前。
他に誰が同じクラスなのか知りたくて、まず女子の欄を上から辿るように眺める。
「やった!リンもミナも京子も一緒だ」
仲の良い友達の名前がたくさんあって、少し嬉しくなる。
その後、男子の欄に視線を移すと。
「隼人…あとツナとも一緒だ!隼人!同じクラスだねっ」
くるり、と振り向いて隼人にそう言うと、そうだなとそっけない返事が返ってきた。
「……どうせ隼人は私よりツナや山本くんと同じクラスだった方が嬉しいんでしょ」
「なっ…んなことねぇよ。いや、10代目と同じクラスなのは光栄だが…」
そう、呟くように言う隼人。
「ふふ、隼人は本当にツナのことが好きだね」
「うるせぇ」
私の言葉に、そっぽを向いてそういう隼人。
頬が赤く染まってるんだもん、そんなの説得力皆無なんだけどな。
「あ、そうだ。隼人、今日の放課後に家に来ない?」
「家…?柚稀の家か?」
「うん。ツナも来るし」
「……そういや、今日か」
ポツリ、と隼人が呟いた。
そう、今日……正確には、8年前の今日。
それが、今私にある一番古い記憶。
私の過去のことを知っているのはたった3人…ツナと奈々さんと隼人だけ。
私がひとり暮らししてるってことは仲のいい友達なら誰だって知ってるけど、本当の過去を知ってる人は本当に極少数で。
「じゃあ、放課後はお前の家で10代目と騒ぐか。……いいよな?」
隼人は少しだけ笑顔を浮かべ、私にそう問いかける。
「勿論っ!」
隼人のひとことに、優しさを感じる。
心配をしてくれているということが感じ取れるけど、隼人が口に出さないから私もそのことには触れない。
その後少しの沈黙が流れたけれど、始業までまだ時間もあるとので私は部室に顔を出そうと思い立ち、その場で隼人と別れた。
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