紅涙の欠片

□Piece03 消えない面影
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8年前の雨のあの日。

私は小さな旅行用バッグを片手にツナの家の前にいた。

隣で誰かが何か言ってたみたいだったけど…記憶にない。


「―――――」


今、何て言ったの?

あなたは誰なの?

ねぇ、誰か教えてよ……





Piece03 消えない面影





次にある記憶は、ツナの家の布団の中で目を覚ましたときの記憶。

そして、私の目の前には……


「あら、目が覚めたのね?良かったわ」


そう言い、凄く素敵な笑顔で微笑む奈々さんと。


「大丈夫?熱、あるみたいだけど…」


本気で心配してくれているツナの姿があった。


「きみ…名前は?」

「…………」

「僕ね、沢田綱吉っていうんだ。ツナでいいよ」

「……私は、橘川柚稀……柚稀で…構わない」


記憶なんてなかったはずなのに…名前だけはちゃんと覚えてた。


「じゃあ、柚稀…」


次の瞬間、ふと目の前が真っ暗になった。


「……え」


私は…ツナに抱きしめられている?

そう気付くのに、あまり時間はかからなかった。


「…もうそんなに怯えなくても大丈夫だよ?」

「え…?」

「ここには柚稀が怯えるものなんて何もない…だから安心してもいいんだよ?」


わたしを抱きしめるツナの手が緩み、私とツナの視線が絡む。

ツナは私の瞳をまっすぐに見据え、呟くようにそう言った。

その瞬間、私の目から涙が流れ落ちるのがわかった。


「ツ、ナ……あり、がと…」


私はそのまま奈々さんに見守られながら、ツナの腕の中で涙が枯れるまで泣き続けた。


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