紅涙の欠片

□Piece05 思いやりの心
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あなたの優しさに、私は何度も救われてる。

だから、少しでもあなたには笑っていて欲しい。

あなただけじゃない、私の大好きな人たち、みんなに笑っていて欲しい。

これから先何があろうとも、ずっとずっと…………笑っていて欲しいんだ。





Piece05 思いやりの心





「重い……っ」


学校の帰り道、私は鞄と重い買い物袋を持って帰路についていた。

仲のいい友達はみんな家の方向が違うので必然的に帰り道はひとりっきりになる。

おまけに部活が終わった後に買い物をしたので辺りは真っ暗。

それなのに家まではかなりの道のりがある。

明日恭弥に渡すお弁当の材料、自分のお弁当の材料、そして夕飯。

その他色々買ったら…何故かこうなってしまった。

しかも部活の後で疲れきっているから余計に重く感じる。

早く家に着かないかなーなんて思いながらひとりで歩いていると、それまで重かった右手が急に軽くなった。


「え…っ」

「重そうだな。持ってやるよ」

「武、くん……?」


恐る恐る後ろを振り向くと、武くんが軽く微笑んで、私の買い物袋を持ってくれていた。


「どうしたの?こんなとこで………」

「それは俺の台詞。柚稀こそこんな時間にどうしたんだ?部活ならもう終わってるだろ?」

「大会近いから結構遅くまで練習してて……そのあとに買い物したからかなり遅くなっちゃったの」


ああは、と笑いながら武くんにそう告げる。


「武くんこそどうしたの?かなり遅くない?」

「俺も柚稀と同じ。大会近いから練習してたら…いつの間にかこんな時間になっちゃってな」

「そっか、頑張ってるね」

「それは柚稀も一緒だろ?そういや柚稀の家、こっちの方だったな」

「うん、そうだよ」

「それじゃ、これ持ってってやるよ」


そんなことを言いながら、武くんが買い物袋を私の目線まで持ち上げた。

………軽々と。


「え…?大丈夫だよ?それくらい持てるって!」

「そうか?かなり重そうだったぞ?」

「………」


重いと思っていたのは本当の事だから、何も言い返すことが出来ない。

でも……


「でもそれじゃ迷惑かけちゃうから…」

「迷惑なんかじゃねぇよ。もう暗いし、これ持つついでに送るよ。柚稀ひとりじゃ危ないしな」


さっきまで笑っていた武くんの表情が真顔に変わり、真剣そうにそう言う。

その姿に圧倒され……武くんの優しさに甘えることにした。


「じゃあ……お願いしてもいい?」

「あぁ、もちろん」


私がそう言うと武くんは笑ってくれて、私たちはふたりで肩を並べて歩き始めた。


「柚稀、いつもこんなに買い物してるのか?」


一緒に歩きながら、武くんがふいにそう尋ねる。


「いつもはこんなに買わないよ。でも明日は……」

「そっか、ヒバリにお弁当作るんだったっけ?」

「うん。自分の分のお弁当と恭弥の分のお弁当。あと夕飯とか買ったらこうなっちゃって……」

「………そっか。でもあまり無理するなよ?」


武くんはそういいながらふと私から少し目線をずらした。

そして……


「まだ―――――」

「え?」


武くんが何かを呟いた。

でもちょうどその時横を通った車の音で、あまり聞き取ることが出来なくて。


「何か言った?」

「なんでもねぇよ。ほら、行こうぜ?余計に遅くなるぞ?」

「……うん」


全部聞きとることは出来なかったけど、微かには聞きとることはできた。

そういえば私…………


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