紅涙の欠片

□Piece11 夜を始める詞
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「……あ」


ランボちゃんに話を聞いてもらってすぐに家に戻ってきた。

そして、家に置きっぱなしだった携帯を開いた瞬間…吃驚した。

だって、メールの3件はまだ驚かなかったけれど……着信が8件も、あったのだから。





Piece11 夜を始める詞





「メール…リンとミナと京子から、か」


内容は「大丈夫?」というようなことだった。

そして着信はというと……


「…全部恭弥からだ……」


時間を見ると、丁度私が出かけたあたりから頻繁にかけてきてくれてる。

悪いことしちゃったな、と思いながらリダイヤルボタンを押す。

コール音が鳴り響『柚稀?』

……1コールもしないうちに電話が繋がった。


「…ごめんね、恭弥。電話……気付かなかった」

『それより、今日も学校来ないの?』

「……うん。もうこんな時間だしね」

『そう…調子はどう?』

「…大分、いいかな?」

『じゃあ明日は来てよね』

「…………」

『…柚稀?』


…ごめん、恭弥。

私に「明日」なんて、ないんだよ……なんて言うことは出来なくて。


「ねぇ恭弥……夕方に、家に来てくれない?」


呟くように電話越しの恭弥に言う。


『ワオ。柚稀からそんなこと言うなんて珍しいね』

「…そう?」

『そうだよ。それじゃあ、風紀委員の仕事が終わったらすぐ行くよ』

「…うん、ありがと」


私の消え入るような声。

その後に訪れた沈黙。

私が黙り込んでいると、電話越しに恭弥が聞こえた。


『……どうかした?』

「…え?」

『何を抱え込んでるの?』

「……え」


本当に、恭弥には敵わない。

私の心、見抜かれたのかな…?

その事実が嬉しい反面…辛い。


「…恭弥、聞いてくれる?私の話」

『当たり前でしょ?柚稀の話なら何でも聞くよ』

「……私ね…もし死ぬなら海辺がいいな、って思ってるんだ」

『…どうしたの?急に』

「…なんでもない。ごめん…今のこと、忘れて」

『ちょっと、柚稀?』


電話の向こうで恭弥が何か言ってた気がするけど聞かなかった振りをして電話を切った。

だって、これ以上話してると余計なことまで言ってしまいそうだったから。

だから……私が無意識のうちに恭弥にSOSを出してたなんて、気付きもしなかった。


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