四宮噺

□三夜呪祈
1ページ/9ページ

 真夜中、ふと目が覚めると枕元に一体の羅刹が立っていた。

こんな高度な式神を召し抱えるとは余程力のある術士に違いない。

半分ほどしか起きていない意識でぼんやり感心していると、羅刹はこちらの顔を穴が空くほどの眼光で見つめ、ふう…と息を吐いた。

「お前は私が何故此処にいるのか解らない様だな」


「知っています。誰かが呪詛をかけたのでしょう?貴方は術士の放った死神だ」

 金縛りの様に起き上がれない。
思えば短くも幸せな人生であった。

出会う人は皆枯れる事のない愛情を注いでくれたし、自分もそれに応えた。
 胸に手を乗せ、じっと時が来るのを待った。
さらさらと淡い金色の髪が閉じた瞼の上に流れる。けれど、羅刹の言葉は意外な呟きだった。

「お前が死ねば世界が滅ぶ」

「…生きていても世界を救いはしませんよ、争いは苦手だ」

「そうではない。お前を失った主の悲しみが天と地と世界を滅ぼすのだ」

羅刹は枕元に胡座を掻き片方の膝を立てた。
…ずいぶん人間味のある羅刹だ。
「…殺そうと呪っているのに?」
「無意識に、だ。故意ではない、お前を愛するが故に私を呼び寄せてしまったのだ」
 眉を寄せ苦々しく唇に手を当てた。
「3日

3日以内に我が主を探しだし、呪詛を解け、東を守護する青龍の宮司よ」

「……」
 やがて煙の様に消える姿を見送りながら、首を捻った。

愛するが故に、相手を怨む。
だとしたら、それは何と深い愛だろうか。

 覚えのある面影が次々に浮かぶけれど、その誰もが忍ぶ末に羅刹を使うとは思えない。

うとうととした頭で思考を巡らしたが、答えが定まらないまま。
青龍の神子はいつしか本当の眠りについていた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ