四宮噺

□三夜呪祈
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 目を覚ますとたくさん人が。
枕元から足の先までぐるりと取り囲み、こちらを覗き込んでいた。

 軽く瞬くと、彼もしくは彼女達…は一斉に安堵の溜め息を漏らす。
「……おはよう…良い朝だね」
 じっと黙視する眼差しに押さえられ、起き上がる事なく東宮は訊ねた。
朝陽に反射する金色の巻毛を指でとき、にっこりと微笑む。
たったそれだけの事で、青龍の宮司は見る者の心腑に矢を放つ。

 最前列の女官と使徒達がぱたぱた倒れる中、一番の上座からそれをかき分け、一人の女性がゆっくりと近づき枕元に膝を落とした。

深紅の髪を脚まで伸ばし、炎の様に情熱的な瞳。
南門を護る、朱雀の神子だ。

「昨夜の禍々しい気が御主に何かしたのではないかと、皆案じておるのじゃ」
そう言われ、昨夜の出来事を思い返す。
あれほどの強い邪気なら確かに外にまで漏れても不思議ではない。

人一倍、負に敏感な朱雀は、瞬時に察知したのだろうか。

「やぁ、暁を含んだ眩い煌めき、麗しの朱雀宮。本日も一層に艶やかだね」

「こ…これ、東の。人前でよさぬか!今日はその様な戯言を聞きに来たのではない!御主に射たれた呪いの話じゃ」仄かに赤らめた頬を衣の袖で隠し、北宮は細く整った眉を寄せた。

確かに昨夜現れた羅刹は強大で、生半可な返しではビクともしないだろう。
「あと3日だって言われたよ。3日以内に呪師を探して解け、と」

「3日!?」

聞き返す声が跳ね上がる。
本来呪術はじわじわと長く苦しませるのが主流で、即死になればそれは黒魔術の領域だ。
やはりあれは高度な召喚、式神の類いに違いない。
深く唸ったまま、先の言葉が出ない二人の鼓膜に、遥か彼方から。

それでもしっかり良く通る叱責が右から左に駆け抜けた。

「あんたたち!どうでもいいから宮の寝所から出なさい―!殴るよっ」
「!!」

いつも通りの白虎の咆哮。
彼女は慣れた手さばきで東の宮邸に群がる親衛隊を次々につまんでは外に放りだす。
いつもと何も変わらない朝だ。

 白虎の方角を護る西の宮はこちらに向かって一直線に駆けてくる。

その姿は迷いの無い、輝ける閃光だ。
「早く起きて!
術師を見つけに行かなきゃ」

「道理じゃな」
朱雀も頷く。

布団にくるまったまま、東宮はふわりと微笑んだ。花弁が零れ落ちると錯覚する、淡く優艶な笑顔。

「…その前に…服を着ても?」そう言いながら、大きく伸びをして半身を起こすと二人の乙女が悲鳴を上げた。



「なんで裸で寝てるのよ、バカ――っ!!」
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