君と出逢えた奇跡


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君と出逢えた奇跡
1章‐1
突然の出来事




タタン……タタン


規則正しい音を奏でながら走る電車。

もうすぐ闇が辺りを包むだろう時刻。
夕焼けの光差し込む車内で一人の少女が本を読んでいた。


腰まで届く柔らかな髪に大きな瞳。
十人中十人が“可愛い”とか“美人”だとか言うだろう整った容貌の彼女は、近くの私立桜木高校に通う二年生で、名前を芹沢紫緒といった。


彼女はある男子高校生に想いを寄せていた。
名前も何も知らない少年。

彼に出会ったのは去年の十二月。
この栗山市に初雪が降った日のコト。


+++


あの日、紫緒が学校を出ると暗い空から白い雪が舞っていた。


「あーあ、早く帰んなきゃ……」


ぼやきつつ足早に駅へと向かい、いつもの電車へ乗り込む。
雪が降っているせいか混雑した車内にうんざりして、紫緒はいつもより一つ手前の駅で降りる事にした。
ドアが開いてすぐ人波を掻き分けてホームへと降りる。
此処からなら家まで二十分と掛からないだろうと予想しつつ、それでも少し早足で家路を辿っていく。
降っていた雪も止み、薄暗い中に月が柔らかな光を落とす。
その幻想的な光景に見惚れ、足元に注意を向けるのを忘れていた。


ツルッ――


「キャッ!」


凍った水溜まりに足を滑らせて転んでしまった。
その拍子にうまく閉まっていなかった鞄から教科書やノートが辺りに散乱してしまう。

人通りが多い事もあって頬を染めながら拾おうと手を伸ばす。
しかし、冷たい空気によってかじかんだ手ではうまく拾う事が出来ない。
周りに助けを求めようとしても、みんな家路を急ぐばかりで見てみぬふりをしていて。
紫緒は溢れそうな涙を堪えて俯き唇を噛んだ。


――その時。
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