もしも作品

□荒川のお母さん
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『はい、熱いから気をつけてね?』

「ハーイ!」
「わぁ、美味しそうっ」
「ワシ、焼き芋初めてじゃ!」

子供達には厚めに新聞紙を包んで。





『はい、ニノちゃん。ピー子ちゃん。』

「ありがとう、母さん。」
「イイ匂〜い!」
「流石、ピー子の作った芋だな。」
「やだっ、ニノったら!」

女の子達には食べ易い細いモノを選んで。





『はい、ビリー君。ジャクリーンちゃん』

「すまねぇな。」
「ありがとう。」

2人には一緒に食べられるように、大きいモノを。





『はい、村長。白さん。』

「おっ、来た来た!」
「美味しそうだねぇ」
「白は、やっぱバター派か?」
「勿論。焼き芋には欠かせないよ。」
「アレ旨いよなぁ、甘さが引き立って。」
「マヨネーズもなかなかイケるよ?」
「マジで?」

2人には調味料も忘れずに。





『はい、リク君。星君。』

「ありがとうございます!」
「サンキュー、母さん。」
「焼き芋なんて久しぶりだなー」
「…おい、なんかお前のデカくね?」
「そうか? 気の所為じゃないか?」
「いーや! お前の方が確実にデカい!」
「ソレ言ったら、お前の方が俺より太いぞ。」

『どっちもどっちだから喧嘩しないの。』


2人には出来るだけ均等なモノを。



皆に配り終わって、ちょっと一息。
後は今日仕事で来れなかったマリアちゃんとラスト侍君の分を包んで…

ふふ、冷めない内に届けに行かないとね。





「マザー、茶だ。」

『あら、ありがとう。ご苦労様。』

「マザーもな。」

『はい、これはシスターの分。』

「すまない。」



シスターは他の人より身体が大きいから、その分、大きめのモノを。
結構大きいのを選んだつもりだったけど…
ハハッ、シスターが持つと小さく見えるわね。

さっきまで賑やかだった此処も、今は皆焼き芋に夢中で口数少ない。
肌寒くなったこの時期に、暖かいお芋が身体に嬉しいからかもね。
お芋から出てくる白い湯気が、食欲を掻き立てる。

皆、焼き芋だけじゃ満足出来ないかもね。
私も、秋のお料理作りたくなっちゃった。



『今日、やりましょうかっ』

「なにをだ?」

『秋の食祭り!』



この手の話題にノリノリで乗っかってくるのは、やっぱり年長組。



「おぉ! イイんじゃねーか?」

「夏以来だね。 楽しみだなぁ〜」

「秋といえば、やっぱ松茸だろ!」

「いやいや、秋刀魚も外せないよね。」

「そいつでキュ〜っと一杯!」

「くぅ〜、いいねえ!」



途端、居酒屋化。
若者達の寒々とした視線が2人に向けられてる。

リク君、キミだって年を重ねれば「こう」なるのよ?

小さく苦笑を溢しながら、胸の中ではワクワクとした心境を隠せない。
そうと決まれば、準備しなきゃ!



子供達のリクエストも聞いて。

マリアちゃん達にも来てもらいましょう!

栗の炊き込みご飯に、カキの天ぷら…

ふふ、ニノちゃんには頑張ってもらわなきゃ!



「マザー、私も手伝おう。」

『ありがとう、シスター。 頑張りましょう!』

「あぁ。」



降り注ぐ温もりと微笑みに私も返しながら、腰のエプロンの紐を、キュッと絞めた。

ワクワクが治まらない、この瞬間…



家族が集う、楽しい楽しい食卓。










何度目かの「秋」



───ススキを揺らす風が

美味しそうな匂いを運んできた。







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