オール短編A
□最遊記序章A
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月夜の静寂
暗闇の中で
一際、眩しく
神々しい光を放つ
月と星
それらに目を細める事なく
ただ笑って見上げていた
一人の男…
男は囁く
何処かを見つめた
遠く…懐かしむような眼差しで…
─────
────
───
──
─
「─────お師匠様方、
そろそろ御休みに為られないと、お身体に障りますよ?」
眩い球体を見上げていた男女は、その声の主を振り返り…
ふっと笑って、手の中の猪口を傾けた。
「えぇ…これが空になったら、ちゃんと寝ますから。」
『お前は気にせず、先に休んで為さい。』
「……お酒も程々にして下さいね。
じゃあ、お先に失礼します。」
呆れた声を出しながら覗かせていた身体を戸の内側に仕舞い込む少年に、
男女は揃って微笑み、言葉をかけた。
「おやすみなさい、工流」
『好い夢を…』
少年が去り、
音を失くした空間に鈴虫の音が響き渡る。
風が葉を揺らす穏やかな音色。
微かに聞こえる雲の流れる音。
全てが調和され、耳触りの良いモノとなる
降り注ぐ月光さえも、暖かいような…
その感覚が、突如ザワめき始める。
月明かりが消えた、
鈴虫が黙った、
風が一陣吹き荒れた、
葉を攫った、
雲が光を隠した、
それは闇夜の侵食…─────
「月が隠れたかと思ったら貴方でしたか」
『無粋な奴だな貴様は…
もうちょっと穏やかに出てこれんのか、─────烏哭。』
「…酷い言い掛かりだよなぁ、ホント」
闇の奥から姿を現した、「黒い男」。
被り笠を外した烏哭の表情は、若干の中傷具合が見え隠れしていた。
どこか、仰々しそうに、
「ほら、鈴虫だって鳴き止んじゃいましたよ。」
『風もすっかり止んだな。』
「あー、ハイハイ…スンマセンでした。」
男女の間に腰を下ろした烏哭。
ちゃっかりとツマミに手を伸ばしながら、徐に言葉を漏らした。
「ねぇ…さっきのが噂の工流くん?」
「えぇ、もうじき7歳に為るんです。」
「ふーん…いいね、生意気そうで」
『あァ、まるで数年前の誰かさんの様だ』
「ハハ、まったく」
「へぇー、だァれの事だろうなぁ」
『はて?』
「誰の事でしょうね?」
考える仕草に空を見上げても、
まだ月は闇の中。
漸く鳴き出した鈴虫の音色の傍ら、ふと男女が揃って口を開いた。
「あぁ、そういえば…アレですね。」
『あ…そうだったな。』
「……ナニ?」
「お久しぶりです」
『久しぶりだなァ』
「…ッブ!! っくくくく」
「なんで、そこで笑うんでしょうね?」
『若者のツボってやつだろ。』
「やだなァ、私だってまだまだ若いつもりですよ?」
少し抜けた2人の掛け合い。
烏哭は更に笑い、腹を抱えながら搾り出すように言葉を放った。
「ふっくくく…ッ、あーもう」
─────その男(ひと)は、
月の光のかたちをして
「あんた等、ホントに変わらないなぁ、─────光明 孔雀。」
寄り添うように、其処に居たのは
星の微光のかたちをした女(ひと)
「…それって一応、褒められてるんでしょうか?」
『…実は、貶されてるのか?』
「っくく…内緒。」
油断をしたら 夜の闇さえ
蝕むような 静けさだった
すべては、
月と風だけが
看ていた 物語。
烏哭の章
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