もしも作品

□荒川のお母さん
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「春」

眼には見えない暖かさと
眼で感じる穏やかさに満ちている

暖かな日差し
頬を撫ぜる風
横切る桜の雨
耳に触れる風の音

足元を見れば
つくしが顔を出して
春を知らせてくれる…



全身で感じる

季節の始まり…











心地の良い、川のせせらぎ。
流れに沿って、何処からともなく桜の花弁が、この荒川にやってきた。
そっと一枚、手にとって眺める。
水滴の付いた花弁は、日の光りでキラキラと輝いて…

私には、何よりも綺麗な宝石に見えた。



「お母さーん!」
「何してるのー?」

『ん? ホラこれ、』



後ろから元気な声が掛けられた。
パタパタと近付く小さな足音が2つ。
鉄の仮面が此方を見つめてくる様は、とっても可愛くて思わず微笑。
鉄雄達の背に合わせて屈み、掌のモノを見せた。



「何これ?」
「うわ、ちっちゃいね!」

『これは桜の花弁よ。』

「さくら?」
「これ、お花なの?」

『そう。 どこからか流れてきたのねぇ』



興味津々に見つめてくる大きな瞳。
ちょっとした悪戯心で、鉄郎の仮面に花弁をくっ付けた。
水滴のおかげでピタリとくっ付く花弁は、小さなバッチみたいに可愛げな存在感を出していた。
自分の仮面についた花弁に驚いたのか、楽しげな笑い声を響かせた兄弟。

微笑ましく見つめていると、また新たな声が近くから聞こえてきた。

ザワザワと少し忙しなく、
言い合いのようなその声に目線を送る。
此方に近付きながら口喧嘩をしているのは星君とリク君。
いつもの事ながら、仲良しねぇ。
その言葉が2人に聞こえてしまえば、即座に否定の怒号が響く事は実証済み。
だからあえて胸の内に留めて、ただ苦めに微笑んだ。





『おはよう、2人共。』



「あ、ママさん。 おはようございます」

「ちょっと母さん、聞いてくれよ! このヒモで甲斐性なしな受けホモが、」

「誰がヒモだ!! お前、ママさんまで巻き込むなよ!」



『あらあら。 甲斐性なしと受けホモには、ノーコメントなのね。』

「ねえお母さん、甲斐性なしって?」
「受けホモって何?」

『うーん…ちょっと残念な個性を持った人の事、かしらね?』

「そっかー!」
「じゃあリクさんは残念な人なんだね!」



「おいコラ、そこの2人!!
間違った解釈の仕方で納得するな!
ママさんも、フワフワした説明しないで下さい!」





人にモノを教えるのは、難しいです。
特に吸収性の高い子供に言葉を教えるのは、少し苦手。
案の定、リク君からご指摘を受けました。
流石は先生、と言っておきましょう。

川のせせらぎを掻き消すほどの賑やかな声達は、穏やかさとは掛け離れて楽しげ。

兄弟に一から言葉を教えてるリク君。
それを斜め気味に理解している兄弟。
ちょいちょい横槍を入れている星。
そこから始まる口論と笑い声。

耳に触れる音は賑やかだけど、とても平和

気付けば微笑が浮かび上がってた。



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