もしも作品

□荒川のお母さん
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「夏」

肌を刺す濃厚な日差しと
胸を突き破る高揚感に溢れている

蝉の大合唱
海の波飛沫
戦ぐ風
風鈴の音色

どれもこれもに 胸が高鳴る

さぁ 今日は何をして遊ぼう



手には水筒を持って

全速力で駆け回る…











噴出す汗。
それを吹き付ける温い風。
日陰に居ても焼ける肌と髪。

一括りに「鬱陶しい」「不快」と跳ね除けてしまえば、それまで。

楽しみを見出すのも、季節を有意義に過せる方法だと思う。



例えば、水浴び。
それは暑ければ暑いほど、水遊びが楽しく気持ちの良いモノになる。



かく言う此処、荒川河川敷でも、そう。
今、川辺では子供達が水遊びに没頭中。
水着ではしゃぎ回る皆の顔は、とっても楽しげで気持ち良さそう。

ニノちゃんと微笑ましげに遊んでいた筈のリク君は、今や星君と潜水ゴッゴ。

その傍では村長がピー子ちゃん相手に、河童の泳ぎを伝授中。

浅瀬では鉄雄と鉄郎がステラちゃんと頭から水を被り、修行ゴッコ。

そして陸地に座り、皆を眺めているシスターや白さんの保護者組。

これが此処の、夏ならではの風景。
海には行けない子達でも、この河川敷で十分夏を満喫できる。
砂遊びだって、スイカ割りだって、カキ氷だって、なんだって出来るんだから。
蝉の鳴き声を聞きながら、時折届く子供達の笑い声と水飛沫の音。

それだけで、ホラ…
嗚呼、夏だなぁって思える。





「…えっと、ママさん?」

『あらリク君、どうしたの?』

「その…微笑ましげにしてる所、申し訳ないんですが……」





「今、洗濯しなくても良くないですか?」

───ジャバジャバ…

リク君の見つめる先は、私の手元。
今は鉄雄達の服を洗濯中。
あとはニノちゃんのと、星君のと…
あ、村長の皮も洗わなきゃ。





「ママさん、一回その手止めましょう。」

『あら、私の事は気にしないで?』

「気になりますよ、泳いでる傍で洗濯物ジャバジャバされたら。」

『大丈夫よ、川下で洗濯してるから。』

「いや、別に汚いとかの問題じゃなくて」

『……あ、リク君の服も洗う?』

「いいです。」





うーん、困ったわねぇ…
日が傾かない内に洗濯物終わらせておきたかったんだけど。

夏は強い日差しのおかげで洗濯物がよく乾くけど、その反面、雨の日が多い。
日本の夏は湿気も強いから、こんなカラッとした日に全部洗い終わらせたい。
洗濯機があれば、いいんだけどねぇ。
あとは室内、私の家にでも部屋干しすれば済む話だし。

そうボヤけば、目の前のリク君の顔が若干輝いてみえた。





「でしたら、俺が乾燥機付きの洗濯機をプレゼントしますよ!」

『えぇ、そんな…』

「遠慮しないで下さい!
いつもお世話になってるお礼ですから!」

『うぅーん…』





キラキラした良い笑顔ね、リク君。
そんなに常日頃の私への借りを返したいのかしら?

今まで私がしてきた行動を「借り」と思われてるのは少し寂しいけど…
一種の親孝行と捉えれば気持ちは楽だわ。
それに…この期待感と任せて下さい的な笑みを向けられると断れない。

結局リク君のゴリ押しに負けた私は、苦笑気味に頷いた。



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