もしも作品

□荒川のお母さん
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『けど、この洗濯物だけは洗わせて?
あとは村長の皮だけだから。』

「そんなもん、軒先にブラ下げておけば日光消毒されますよ。」

『ふふ、日光じゃ汚れは落ちないのよー』

「ていうか、あの人いつも水の中に居るんですから洗われてるのと一緒なんじゃ…」

『そうね、表側はね。』

「…ん?」

『でも私が洗いたいのは裏側なのよ。 汚れが結構頑固で…』

「今アッサリと衣類扱いしましたよね?
はっきり表裏って言いましたよね!?」

『ふふふ。』





リク君が狼狽えてる間に、洗濯終了。
手の中の緑色をパンッと弾くと、小さな水飛沫が舞い広がった。

うん、綺麗になったわ。





「マザー。」

『あらシスター、どうしたの?』

「干すのは私がやろう、マザーは少し休みなさい。」

『大丈夫よ、すぐ終わるから。』

「もうじき昼食の時間だ。
飯の支度の前に、身体を休めろ。」





有無を言わさぬ圧力。
長身のくせに凄むのは卑怯だと思うわ。
その上、近くに居た白さんまで便乗してくるなんて…
分かったとしか言えないじゃない。
過保護で、とても優しい2人に完敗。
あら? 今日の私は負けてばっかりね。

苦笑しか浮かばない私の頭を、シスターの大きな手が包み込んだ。

彼の時折見せる優しい、仄かな笑顔。
シスターは微笑を浮かべ、そそくさと背を向けて行ってしまった。





「ほら、ママさん。 座って座って。」

『白さんったら…、あら? 白さん、白線ないのに川に足入れて大丈夫なの?』

「あぁ、大丈夫。
さっき子供達が足元に白い石を積んでくれたからね。」

『あらホント、可愛い白線ね。』

「お蔭様で久々に水浴びが出来たよ。」

『ふふ、良かったわねぇ。』





でもチャッカリお尻の下には白線。
ふふ、後で白さんの服も洗わなきゃ。





「皆、気持ち良さそうだねぇ。」

『えぇ、ほんと…楽しそう。』

「あ、そうだ。 さっき冷やしたスイカ、もう食べ頃じゃないかな?」

『あぁ、そうね!
じゃあシスターが戻ったら、皆でスイカ割りしましょうか!』





ステラちゃんに粉砕されなきゃいいけど。

その前に、リク君と星君がまた喧嘩しちゃうかもね。

あ、いっその事、ラスト侍君にやってもらいましょうか。

いいね、きっと均等に捌いてくれるよ。

その後は、種飛ばし大会ね。

1位は絶対シスター君だろうね。

あら、村長もなかなかやるわよ?

なら僕も負けてられないなぁ…





穏やかな会話のバックを奏でてくれる蝉の声と、皆のはしゃぐ声。

声と共に飛んでくる水飛沫に釣られて、零れる笑い声。

嗚呼、シスターが戻ってきたわ。
それじゃ、皆を呼んでこなきゃ。
マリアちゃんも、
ビリー君も、
ジャクリーンちゃんも、
ラスト侍君も、

皆一緒に、夏を楽しみましょう。



『皆ァー、そろそろ戻ってらっしゃーい』



皆、家族で過す、暑い午後。










幾つ目の「夏」



───空に広がる、入道雲が

青空に映えていた。







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