もしも作品

□WORST 梅星一家の華
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「よぉ、おかえり。
まーた喧嘩したんだってな!」



帰宅して早々、政司さんの開口一番に顔が引き攣ったのが分かった。
もう連絡入れたのか、あのセンコー…
その行動力をもっと他に活かせや、糞が。

内心の言葉は後日本人に言おうと心に決めつつ、政司さんの言葉に頷いた。



「まぁ若い内は無茶苦茶やっとけ!
ただ、デッケェ怪我だけはすんなよ!」



この人は、いつも私を気に掛けてくれる。
いや、政司さんだけじゃない。
マリさんだって、犬のデニーロだって。
いつも私の事を気に掛けて、心配してくれる。

私は、それが…



『…大丈夫ですよ、皆さんには迷惑かけませんから。』



申し訳なくて、仕方なかった。

親ナシの私を、小5の時から嫌な顔一つせずに面倒見てくれた政司さん達。
別に親戚と云う訳でも、親の親友と云う訳でもない、本当の他人の関係なのに。
何処からか、「私の噂」を聞きつけて。
こんな「私」を態々引き取ってくれた。

感謝の念以上に、申し訳なかった。

不器用で弱い私は、偽る事が出来ない。
優等生にでもなって、2人の心配事を少しでも減らせれば良かったのだけど…
私は結局「私」を偽る事が出来なかった。
いつも喧嘩ばっかして、
服も私物も血や傷で一杯、
公共物を壊すのだって珍しくない、
迷惑しか掛けてこなかった私は、2人に対して罪悪感と背徳感しかなかった。

だから私は、早く大人になりたかった。

せめて中学を卒業すれば、
せめて何処かで働ければ、
せめて此処から出てければ…
2人に、少なからず恩返しが出来るのに。
いや、そもそも…

私なんて、居なければ良かったのに…

そんな念を、最近いつも思っていた。





───学校が終わると、必ず家に帰った。
寄り道なんてせず、真っ直ぐに。
家に帰ってする事と云えば、専ら勉強。
ヘタに外へ出ても、どっかの馬鹿共に絡まれるだけで鬱陶しいし。
勉強は幾らやっても無駄になる事はないから。

勉強して、
知識をつけて、
少しでも未来に繋げるように、

あと一年半で卒業できる。
その思いは私に大きな開放感を抱かせた。
卒業すれば幅は狭くても、働ける。
お金を貯めて、何処か賃貸でも借りて。
少しでも政司さん達の負担を減らしたい。
そして、少しずつでも恩を返してきたい。
それだけが、今の私の目標だった。

そんなある日…───



私は喧嘩で、これまで以上の怪我を負ってしまった。



全治一ヶ月と、なかなかの重傷。
他校の男数人に絡まれた、いつもの喧嘩。
いつもと変わらず、下らないと吐き捨てていた私だったが…

この日、私は始めて政司さん達に怒られた

脳天に、ゲンコツ2発。
痛い以前に、絶望の念を感じていた。
嗚呼、また迷惑をかけてしまっている。
恩返しの前に、嫌われてしまったか。
もう、追い出されるかもしれない…
失意の念に浸っていた私だったが、違った

政司さんは、怒鳴り上げて言ってくれた。



「どれだけ心配したと思ってる!」

「怪我すんななんて無茶な事ぁ言わねえ」

「ただ、意味のない喧嘩だけはすんな!」

「喧嘩すんなら、負かした野郎とテメェの周りの人間の気持ちを考えろ!!」



政司さんは、そう言って抱き締めてくれた
…強く、痛いくらい強く。
マリさんは、微笑ながら涙を流してくれた
…向けてくれる視線が、暖かかった。
2人は最後に、言ってくれた。



「俺達は、家族なんだ。」

「今までの家族は、お前にとって自慢できるモンじゃなかったかもしれねえ。」

「けど、今は胸はって自慢しろ。」

「痛みも苦しみも喜びも、皆一緒になって背負ってやる家族が此処に居るんだ。」

「いいか? 俺達は梅星一家だ!!」



脳天が、痛かった。
抱き締めてくれる体が、痛かった。
マリさんの泣き顔を見て、眼が痛かった。
痛くて、痛くて、痛くて…

零れそうな涙を、堪えるのに必死だった。





『……痛いよ、政兄ィ…』





その言葉は、私が始めて「家族」を受け入れた瞬間だった。















本当は大声で、泣き叫びたかった





下らない私の人生に

2つの色と温もりが、加わった…




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