もしも作品

□荒川のお母さん
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「秋」

鮮やかなキャンバス

空や地面に範囲を広げて
この高揚感を長々と掻き立てる

紅葉の綺麗な赤
銀杏の可愛い黄
松の実はコロコロと地面に落ち
風が吹けば色とりどりの世界が広がる

踏みしめた足元から聞こえるのは
カサカサとした季節の訪れ



眼で味わい
鼻でまどろみ
舌で味わうのも、

この季節の醍醐味…











読書の、秋。
味覚の、秋。
芸術の、秋。
スポーツの、秋。

一口に秋といっても様々で、色々な楽しみ方がある。

静かに、秋という季節を感じる者も居る。
賑やかに、この季節を満喫する者も居る。
どれもが、とても大切で、外してはならない季節の過し方。

そして、この荒川にも…





『んー、好い匂い。』

「もう焼けたのではないか?」

『そうね。そろそろ皆呼びましょうか?』





協会の前に、少し大きな焚き木が一つ。
モクモクと漂う灰色の煙が、甘い匂いと共に範囲を広げる。
火の点いた枯葉の中から覗くのは、この時期には外せない、焼き芋の数々。
ピー子ちゃんの作ったサツマイモは、とっても甘くて美味しい物ばかり。
毎年、私達の舌を楽しませてくれる。
そして、それを調理するのは、毎年の私の楽しみでもあり、仕事の一環。

今日はシスターが、私のお手伝いさん。
おかげで沢山の焼き芋が出来上がったわ。

さて、皆を呼んでこようかしら。
そう腰を上げた私に、すかさずシスターが静止を掛けてきた。





「いい、私が呼ぼう。」

『あら、そう? 助かるわ。』

「任せろ。」





私が腰を屈めたと同時にシスターは立ち上がり、手の中の黒いモノを天高くへと掲げた。

そして響き渡る…───怒号と銃声。





───ズドドドド!!


「全員、直ちに集合ォォ!!!」





轟く銃声に負けないシスターの怒号。
間違いなく、この河川敷中に響き渡った。
彼の声は下手なサイレンよりも拡張性が高いと思うわ。

間もなくして遠くから地響きが聞こえ。
砂煙と共に、男性達が集結。
ふふふ、皆凄い顔。

その中でも軍を抜いて凄い顔なのが、リク君と星君。

真っ青な顔色のまま、呼吸が虫の息。
そんなに焦らなくても良かったのに…
なんだか悪いことしたわ。





『あらあら、大丈夫? 二人共。』

「ゼエー、ハァー…ちょ、母さ、ん」

「ま、ママさ…こ、この集め方、止めて、もらえます、かねっ?」



「軟弱だぞ、貴様等。」

「リクと星は体力ないなァー」





ここぞとばかりに村長が笑ってる。
ふふ、一番乗りした特権だものね。
この中じゃ、年長組が一番元気かもね。
村長の次に着いたの、白さんだし。

程なくして女性陣も続々と集い出し、いよいよ焼き芋パーティの開催。

焼けたモノから順々に新聞紙に包んでく。
シスターに皆のお茶を入れてもらいながら、次々と渡していった。



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