もしも作品

□荒川のお母さん
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「冬」

輝かしい白のキャンバス

視界に広がる氷の世界
その冷たさとは裏腹に胸が熱くなる

綿菓子のような絨毯
硝子細工みたいな透明の道
雪も氷も…吐息でさえ白くなる
冷たい風なんて少しも気にならない

爪先から頭の天辺まで、大事な絵筆

さぁ、この白の上に
何を描こうか…



炬燵に包まってるなんて勿体ない

寒くても
悴んでも
凍えそうでも…

この声を聞いて、外に飛び出してご覧?



今しか味わえない

そんな楽しみに満ちてるから…











冬と聞いて、皆は何を思い浮べる?

マフラーに手袋?
炬燵にミカン?
お鍋におでん?
粉雪に氷柱?

ああ、クリスマスやお正月も有るね。

楽しい事、待ち遠しいモノが沢山。
でも皆、一丸となって縮こまってる…
寒いのは嫌いかな?
冷たいのは好まない?
炬燵やストーブの前に居る方が、いい?
そんなこと言わないで。
一歩だけ、外に飛び出してみよう。

ほら、聞こえない?

子供達の笑い声が…





「リク死ねゴラァア!!!」

「テメーが死ね星ィィイ!!」



「わー、頑張れリクさぁん!」

「星もファイトー!」



「リク!もっと腰を使え!! 投げ方がなっとらんぞ!!」

「よっしゃ! ワシが見本を見しちゃるけん!」



「おぉ、みんな凄まじいな。」

「鬱陶しいわね…、そのまま雪に埋もれて自然と一体に為ればエコなのに。」

「マリアちゃん…それは、ちょっと違う気が…」





暦も12月に入り、寒さが一段と肌を刺激してくる此の頃。
此処、荒川河川敷では、今年一番の賑やかさを見せているかもしれない。

それもその筈、皆の足元には一面に敷き詰められた雪の絨毯。

寒さなんて吹き飛んでしまうほど煌びやかな光景に、皆の胸が躍ってるのが判る。
冷たさの中の澄んだ空気を肺いっぱいに吸い込みながら、目線は子供達に…
その楽しげな声を耳に、私は小さく笑みを零した。




青年組のリク君と星君は、足元に沢山の雪玉を作って投げ合ってる。
全力投球に加えて、日頃の諸々を込めた雪玉は凄まじいくらい殺気が篭ってた。
彼等らしい、雪合戦。


その戦場から少し離れた所では、鉄郎くん達が雪だるまを作りながら観戦。
偶に2人の方へ飛んできた雪玉を笑いながら避ける兄弟は、本当に純粋で楽しそう。
可愛い雪だるま、大量生産中。


リク君達の怒号に負けないくらいの大声を上げているシスターとステラちゃん。
野次なのか助言なのか解らない言葉の数々は、宛ら試合を見届ける監督のよう。
その傍らで大きな雪玉を持ったステラちゃんに、リク君達が逃げ出した。
熱血指導は、いつも通り。


対する女の子達は、温度差が激しいくらいのホノボノとお喋り中。
いつ造ったのか、大きなカマクラの中にはニノちゃん、マリアちゃん、ジャクリーンちゃんがスッポリ入ってた。
その空間にだけ、何故か雪玉は飛んでこないことに笑いが零れる。




皆それぞれ、自分に合った楽しみ方。
子供は風の子とは、良く言ったものだわ。
暖かいお部屋の中も捨てがたいけど、やっぱり今しか味わえない楽しみも大事ね。

そんな気持ちを込めて、後ろを振り返った





『フフッ、何だか此処だけ、日曜日のお父さん大集合ね。』


「日曜以外は頑張ってるからなァ〜、お父さんは。」

「ハハハ! お父さんにもお休みは必要だからねェ。」

「子供は元気に外で遊び、大人は家でマッタリと…で、ござる。」

「つーことで女将、熱燗もう一杯。」


『ふふ、ハイハイ。』





どうやら梃子でも動かないみたい。

大人組と表された4人は、炬燵の中でシットリと昼酒に舌鼓。
炬燵が外にあるってだけで違和感なのに、雪の上となると更に面白い違和感。
湯豆腐を肴に熱燗を傾ける、村長、白さん、ラスト侍くん、ビリーくん。

これで天ぷらでも出したら、夜まで呑み続けるでしょうね…この人達。

おかわりのお酒を注ぎながら、ほんのり顔の赤くなってきた4人に苦笑いが浮かんだ



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