もしも作品
□荒川のお母さん
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「ママさん、今日の夕食は何にすんだ?」
『おでんよ。 昨日から煮込んでるから、味も良い具合に滲み込んでるしね。』
「おでん! 最高でござるなっ!」
「ママさん、ちくわぶ入ってる?」
『勿論。 餅巾着もゴボウ巻きも、全部で30種類は入ってるかしら?』
「…女将、卵は幾つぐらい入ってる?」
『フフッ、心配しなくても沢山入れてあるわ。 皆、卵好きだものね。』
「俺、ママさん大好きだわ…」
『あらあら、ありがとう村長。』
そこまで喜んでもらえると有難いわね。
頑張って作った甲斐があったわ。
おでんかお鍋か迷ったけど。
やっぱりこの時期、暖かいモノが好ましいものね。
4人がおでんの具について熱い論議を繰り広げているのを微笑ましく思いながら、私はそろそろと子供達に声を掛けた。
『皆ァー、そろそろ休憩しましょー』
私の呼び掛けに、皆が揃って動きを止めてくれた。
次第に此方へ集まってくる、子供達。
はしゃいでた子達は、揃って手を真っ赤にさせていた。
あらあら、霜焼けになっちゃって…
『ハイ皆、暖かいタオル。』
「ぅお、ありがてぇ〜」
「スイマセン、ママさん。」
「母さん、手がジンジンする〜」
「僕も〜」
「ワシも手が真っ赤じゃ。」
「お前達…手袋を外すからだぞ。」
『あら、手袋とっちゃってたの?
じゃあそれ、霜焼けじゃなくて凍傷?
指先が死んじゃう前に、お湯で温めなさいね? マッサージも忘れちゃダメよ?』
「Σいやママさん!? 何シビアなことサラッと笑顔で言ってんですか!!」
「ガキ共泣くから、もっとオブラートに!
寧ろ俺がちょっと泣きそうだから!」
「それは見事な自業自得だぞ。」
シスター、辛辣ね。
顔を真っ青にしたリク君達が、押し黙った後すぐに何処かへ駆け出していった。
多分、お風呂にでも行ったのね。
急いじゃって…もう後姿が小さいわ。
まぁ、仕方ないわね。
だって指先がもう紫色だったもの。
全力疾走していく2人に習って、子供達も次々駆け出していった。
マッサージちゃんと出来るかしら?
少し心配だけど…リク先生が居るから大丈夫ね。
一人安心しながら、シスターに入れておいたコーヒーを手渡した。
『シスター、お疲れ様。』
「すまない。」
『あら、シスターも手が真っ赤よ? リク君達ほどじゃないけど。』
「このくらい問題ない。 昔は極寒の中を、半裸で1日過ごした事があるからな。」
『凄いわねぇ、最早人間じゃないみた、』
あら、古傷から出血が。
別に貶した訳じゃないのに。
日本語ってホント伝え方が大変。
あらあら、向こうでマリアちゃんが爆笑してる。
もう、マリアちゃんって本当に天邪鬼なんだから…
シスターの頬にタオルを押し付けながら、小さく溜息。
ますます出血量が多くなってる気がしながら、できるだけ無心で血を拭った。
あ、リク君達が帰ってきた。
「Σ大惨事!?」
「Σマリアさんが、また何か…!!」
「いやねぇ、2人共…そんなにシスターと同じ姿になりたいのかしら?」
「シスター大丈夫けぇ?」
「…問題ない。」
「でもフラフラしてるよー?」
「いつもより血いっぱーい。」
『ウフフ、なら夕食は沢山食べなきゃね』
血でいっぱいになったタオルが3枚目になった頃…
ふと頬を撫ぜた冷たい風に空を見上げた。
ハラハラ…
サラサラ…
灰色の空から舞い降りてくる、雪。
空も地面も白くなっていく。
それに気付き始めた子供達が、また笑う。
大人達も、寒いと言いながらも、つられて苦笑い。
皆の笑顔に私もつられながら、手の甲に触れた一粒の雪にホッコリとした気持ちになれた。
自然と笑顔が浮かぶ、そんな季節。
世界を白に戻す「冬」
───雪が解けた頃…
また、季節が始まる。