愛楯【短編】

□【「それでもイイ」と、君は笑った】
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―――泣き出したような、どしゃ降りが
身体全体に重く染み込んで

つられた訳じゃないのに…

       涙が、流れた……―――

























さっきまで、サラサラな雨だったのに

今はバケツを引っくり返したような鬱陶しい、豪雨に近い。



一体どのくらい、こうしているのだろ?










感覚的に数時間は経っている気がする。
でも実際は、僅か数分だろう。

まったく気が滅入る。
私は一体、何をしているんだ。










この男は…一体何がしたいんだ?




















『…十文字』

「嫌ッス、」

『十文字…』

「聞かねェ、認めねェ、諦めねェ」





先程から、この調子。
人の話を聞かないばかりか、認めねーとまで言い出す始末。

勘弁してくれ。















『諦めろ、十文字』

「嫌ッス」

『…お前が、どんなに足掻いたって』

「嫌ッス、」

『変わらない事だって、あるんだ』

「…嫌ッス」




















『お前がどんなに、私を好きでも

私は、蛭魔が好きなんだ…』




















雨で重みを増した身体は…
徐々に、暖かさを失ってきた。

芯からの冷えに、身体が振るえる。





条件は同じなのに…
十文字に振るえは見られない。





寧ろ、コイツの瞳は…熱く光を灯している。
























「アンタが、蛭魔を、好きでも」

『……』

「俺は、アンタが好き、なんだ」

『……私は、お前を愛してやれない』

「それでも!…俺はアンタを愛せる」

『…自分を、愛してくれなくても?』

「馬鹿みてーだけどよ、」

























「俺は…そんなアンタに惚れてんだ。」




















【「それでもイイ」と、君は笑った…】




―――愛してくれないのに…
傍に居るだけが、愛しく満たされる。

そう…悲しく囁いた彼は…



漸く…寒さに身を振るわせた。










【あとがき】
切ない十文字夢。
初っ端からゴメンね、もんじ…!



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