オール短編A

□最遊記序章A
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食い尽くせば いい

骨の一つも 残さずに…











独りの少年は、誰に言うでもなく、
自分へ行ったかもしれない、

闇の潜んだ瞳で、世界を眺めた。










─────
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───
──











日中、寺院に響く修行僧の声。



「三蔵様!」
「郷代三蔵様、そろそろ道場の方に…」
「……ッあ…!!」



寺院の蔵に駆け寄った修行僧達の顔色が、突然と変わった。
自分達の師と並んで佇んでいた、2人の男女を目にして…



「…お弟子さん達がお呼びですよ?」

『慕われておるなァ、郷代?』



2人の視線は傍に並ぶ大柄の男へ。
郷代と呼ばれた男、威厳を振りまきながら鋭い目で弟子達を睨みつけた。



「なんだ騒がしい…客人の前だぞ!」


「こ、光明三蔵法師様!」
「孔雀ノ巫女様!」
「これはッ、とんだご無礼を…!」



『よい、邪魔してるぞ?』

「用事がてら見学させて頂いてるだけなので、お気になさらず。」



「お前等な!!
わしが居なくても稽古くらい自主的に始めんかッ!」

「は、ハイ!!」
「スイマセンっ!」



師の手厳しい喝に、走り去る僧達。
その傍ら、彼等の後姿を暖かい眼で見送る男女は夫々言葉を放った。





『おいおい…お前、相変わらずだな』

「スパルタ親父が抜けてますよ、孔雀」

「ふんっ、人を親父と呼べた義理か?
お前ももうじき四十だろ、光明?」

「やだなァ、これでも案外気を使ってる方なんですから。
まだまだナウなヤングには負けませんよ」

『・・・・』

「…それが死語な事くらいワシにも分かっておる、そんな眼で見るな孔雀。」





彼等、同期の僧とだけあり
会話の軽さと雰囲気に、穏やかさが漂う。
長い付き合いだからこそ、口から出てくる悪態。

そして、内なる不穏の予知…





「しかし…確かにワシも老けた。
人間なんぞ、そう変わるものでもないと思っとったが」

「・・・・」

『…不変は、そうあるモノではない』

「あぁ……分からんな、最近の若い衆は」





シミジミと、そして染み出すように零れた囁き。

ナニかを感じさせる、その気配。

郷代の案内で寺院内を歩く、光明と孔雀。
大きく広い背中には、ナニが背負われているのだろう。





「そうですか? 皆、真面目に修練に励んでいるようですが」

「大概はな…だが中には、」





その時、郷代の言葉を遮る怒号が響く。
前を通りかかった部屋からと分かり、中を覗き込んだ。
室内では多くの修行僧達が写経に勤しむ中…一人の僧が、先程の怒号の対象らしい。
だが少年は怒りの声に臆せず、ふざけた笑みを振り撒いた。

チャラけた軽い口振り。
周りを惹き込む、話術と雰囲気。
多数の僧の中でも群を抜いて目立ち、賑やかな笑いに囲まれた少年。

一見、穏やかな様子に光明は笑い声を発した。





「アッハッハ、クラスに一人は居るんですよね、ああいうタイプ。」

『郷代、彼は?』

「此処のトップだ、名は健邑。」





郷代の視線は逸れる事なく、真っ直ぐと健邑を見つめていた。
射貫くような、鋭い眼光には若干の警戒心さえ感じさせるモノがあった。

孔雀と光明も、彼を見る。

一見すれば何処にでも居そうな、明るい集団の輪となる人気者体質な少年。
そして郷代の語る「健邑」は、どこか異質に思える程…完璧な少年だった。
体術、砲術と修行僧の誰よりも優秀。
この寺院へ来たのは半年前と浅い期間にも関わらず、その才能は天性。
更に、17歳の若さで博士号まで取得。
だがそれを鼻に掛けるでもなく、その持ち前の気さくさで敵を作ることはない。

聞けば聞く程、彼の完璧さが際立つ。
だが…それを語る郷代の表情は、自慢の弟子を称える喜びは微塵もなかった。





「孔雀、御主には分かるか?
在奴の異質さ…その奥に潜む違和感を。」

『・・・・』

「ワシは感じるぞ、あの姿は計算された上での…─────虚構だ。」





言葉なく、彼を見つめる孔雀と光明。
表情なく、ただジッと…

不意に視線が合わさる。
僧達と雑談をしていた健邑が、気付いたように此方を見て、ふと笑った。
人には会釈だと思われるだろう。
だがその笑みは、どこか不敵で、どこか不自然で、どこか器用な、微笑み。





ドロリ、とした…「闇」の欠片─────















闇夜を見下ろす、光





ジワリ ジワリ

夜を食い尽くす「闇」



ジワリ ジワリ

光を呑み込む「闇」



ジワリ ジワリ

次第に影を伸ばす「闇」










ジワリ、ジワリ、ジワリ…

雲から覗く「光」

辺りを照らす「光」



「闇」は、まだ気付かない…






…───to be continued

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