オール短編@

□最果てまで走れ
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カキーン



空に飛び込んだ白い玉が、赤く色付いた雲に包まれた。
高く飛び立った筈の玉。
呆気なく落下していき、雑作もなく小さなグローブに捕まった。

捕まえた男子は爽やかな笑顔で喜ぶ。
次には鋭い面構えで玉を投球した。

投げられっぱなしの野球ボール。
上から見たら、何て滑稽なんだろう。
それを投げる野球部員も。
受け取る先輩部員も。
隅で素振りしてる後輩部員も。
指導を飛ばしてる顧問も。
熱を帯びてる皆々が、とっても滑稽。






ガラガラガラ

「あ、居た居た。」



やっときた待ち人。
半ば見下していた視線をヤツに向けて、頬杖していた腕を力なく上げた。

『おつかれー』

「お疲れたー」

開け放ったドアから入り込んできた風が、コイツの汗の香りを運んでくる。
今じゃ懐かしいこの匂いも、あと少しで途絶えると思うと胸がザワつく。
そんなの、この時期じゃ皆が思ってる事。
あえて口に出すような失態は犯さないと、何事もなかった風に立ち上がると、預かっていたコイツの鞄を投げ渡した。



「っと」

『帰ろ?』

「おう」



淡白な会話を繰り広げ、家路に向かう。
色付いた廊下や階段、玄関口。
何気ない風景が今日は妙に目に焼き付く。
一歩一歩踏みしめて、噛み締めて。
校庭に出ると、空一面が綺麗な橙色に染まってた。

揃って見上げて、息を吐く。

会話がなくても、互いに何を思ってるかは大体分かってた。
この時間を惜しむ気持ちとか、込み上げてくる空しい想いとか…
どんなに気持ちがリンクしてると感じても
それでも、口には出さない。
出したらそれだけ、重く強く実感してしまう事を私達はよく知ってたから。



「あー…あと一ヶ月か」

『リョータが何で卒業出来るかが未だに謎だよ。アレか?校長と寝たか?』

「殺すぞ。
誰があんな縦筋入った足みて興奮するか」

『噛めば噛むほど味わい深い』

「俺はスルメ派じゃねえ。瑞々しいイカ刺し派だ。」

『私はイカフライ派』

「お化粧も必要だよな」

「食うんかい。」



因みに前まで2人してハマってたのは、ファミレスのイカ墨パスタ。
お歯黒テカテカ〜とか揃って馬鹿やってた頃が、いやに懐かしい。
あん時爆笑してくれたの花道と三井さんだけだったなァ……アヤには叱られたし。

あの頃の面子で馬鹿やれるのも、もう残り僅かか、もうないだろうな。

三井さん達OBは、大学で頑張ってるみたいだし。(今じゃメル友状態)
アヤは東京の大学に進学。
花道達は新たな湘北バスケ部改築に燃え滾ってるし。(アイツの進級だけが心配だ)
かくいうリョータも推薦で進学。
私も専門学校で頑張る予定だ。

皆バラバラ。

やりたい事は皆一緒なのに、行き着く所は何処も違う。バラバラだ。

ふと先程見ていた野球風景が過ぎる。
投げられっぱなしだったボール。
あちこち投げられて落とされて転がって。
でも最後には、ちゃんとグローブに収まる。どんなに投げられても。
滑稽と思ってた風景。
私は、羨ましかったのかもしれない。

グルグル投げられても
最後には皆、グローブに収まる。

どんなに方向がズレても
最後には皆、同じ所に集まる。

うん、なんて羨ましいんだろう。
人の道も、そうやって綺麗に集まれば…
こんなに哀しくなる事もないのにね。



『リョータ…』

「ん?」

『アヤに告んないの?』

「ッブ!?」



汚ぇなー。
予想通りのリアクションに溜め息。
いつまで経ってもコイツはヘタレてる。
何年越しの片思いなんて重いだけだって。
夢のない思いは、胸の内。
だって言ったらコイツ絶対泣くもん。



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