短編

□雨だれ
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ポツリ。


冷たいしずくが一つ、私の鼻先に落ちてはじけた。



通り雨…?
ぼんやりとした思考の中、灰色に染まった空を眺めて呟く。




寮まで結構な距離はあるが、もし雨が激しくなっても隣にいる黒子に頼んで空間移動してもらえばいい。



なんて勝手な事を一人考えていたら、



ザァァアア…


先ほどの小降りとは考えられないほど突然の大雨。




「うわっ!何よこの雨!」



右手で黒子の手を掴み、左手で鞄を頭の上にのせて全速力で走った。



このまま寮まで突っ走るか…


いや、さすがにそれは遠すぎる…


それに先ほどから黒子の様子がおかしい。



とりあえず近くにあった小屋で雨宿りする事にした。



見た目も十分古いが、小屋の中も木が腐っていて歩くたびギシギシときしむ。


もちろん人は私たちしかいなくて。



「雨ひどいわね…。天気予報曰わく当分やみそうにないわよ」



「そう…ですの…」



「黒子?さっきからどうしたの?」



「いえ、少し体が冷えるだけですわ…」


「ち、ちょっとあんた震えてるじゃない!汗もすごいし…」



「これくらい…たいしたことなど…」




「嘘つくんじゃなわよ!風邪ひいちゃったのかしら…。とにかく濡れた体をなんとかしなくちゃ…」



とは言ったものの、生憎タオルなどの水を吸い取るものは持っていない。




こうなったら最終手段。
長袖のシャツでわしゃわしゃと黒子の髪を掻き回す。



雫が黒子の細い髪を伝って地面に落ちていく。



サマーセーターを脱ぎ、体にかけてやったがお互い雨でびしょ濡れなのであまり意味がないと思うが。



膝をたてて小さくなっている黒子に寄り添い、少しでもあったかくなったら…と背中をさする。





「ごめんね黒子。こんな事くらいしかしてあげれなくて」


「んぅ…はぁ…っ、お姉、さまぁ…」




苦しそうに私を呼ぶ黒子の吐息は荒く、息をするたび長いツインテールが揺れてる。




よほど辛いのか目をあけるのもままならないようだ。



こんなに弱ってる黒子初めてみた…
苦しそう…
他に私ができる事は…



「黒子、じっとしててね」



「…んっ」



汗ばんだ頬にそっと手を添えて唇を重ねる。




もがく黒子を気にもせず接吻を続けていたが、さすがに息苦しくなったのかドンドンと胸を叩いてきた。



「っ…は…なに、を…」



「風邪ってうつせば治るでしょ」




「だからって…これ以上黒子をドキドキさせないで下さいまし…」




「うつしちゃえば楽になるわよ」




「それではお姉さまが…」



「いいから」




抵抗する気力もなくなった黒子は私にされるがまま。




どれくらいの時間がたったのかわからない。

気がついたら外のどしゃぶりだった雨は止んでいて綺麗な虹がひとつ。



熱のせいなのか腰が抜けたのか、立ち上がるのに苦戦している黒子をおぶって帰ることにした。



「続きは後でね」



耳元で囁いたら顔を真っ赤にさせちゃって。



「これでは熱をうつすどころか上がってしまいますわ…」







おわれ
 

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