【拍手の物語】

□【奥さんは女子高生】
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お風呂上がり、ワイシャツに着替える剣八。
やちるが用意をしてくれたのは、よく糊のきいたワイシャツだった。

先ほど風呂に入りたくて、

「風呂沸いているか?」

と尋ねたら

「お風呂ぉ……?」

と、やちるは何だか誤解をしたようだ。
剣八はただ、汗をかいたから入りたかっただけなのに、
怒りに油を注いでしまったらしい。
やちるはますますふてくされてしまった。


剣八は出かける前に、やちるに一言声をかけてから、
行こうとした。
居間に戻ってみると……


剣八は驚いた。



先程座っていたソファの上で、やちるは寝ていた。
熟睡しているらしくすうすうと、寝息をたてている。

「……やちる?」

まだやちるは制服姿のままだ。
そのまま寝転んだらしく、短いスカートは捲れ上がってしまっている。
おかげで太ももと、下着が露わになっていた。

「…………………」

剣八はしばしの時間、
幼妻のはしたない姿を、堪能した。

数分後ようやく声をかけてみる。

「おいやちる……どうした?ふて寝か?」

しかしやちるは目を覚まさない。
気持ち良さそうにしているので、
、このまま寝させてあげたいが、
今の時期は真冬。
体を冷やして風邪をひいてしまったら、大変だ。
スカートを直してやって、頭をなぜて声をかける。

「……やちる……」

「……うぅん……」

やちるが身じろぎして、起き上がった。
ソファの上でネコみたく、よつんばになって伸びをする。
ふわあぁっと大きな欠伸もする。

「…………」

やちるはその後ぼーっと、剣八を見つめた。

「………………」

「おい、寝ぼけてるのか?」

やちるは首を傾げた。


「………剣たん……?」

「あァ?………」

「………剣たんだ」

そう言ってやちるは、満面な笑顔になった。

「………やちる?」

「剣たん、いいにおいねー」

何か変だ。

「………やちる……どうした?」


やちるの様子がおかしい。

さっきまであんなにふてくされたのに……、
今は剣八を嬉しそうに見つめて、
きゃっきゃっと騒いでいる。


この変わりようはなんだ?
おまけにこのテンションの高さは、
なんなんだ?

やちる……お前……一体どうした?


「やちる……どうしたんだ?」

俺が風呂に入っている間に、何があったんだ?

怒りが頂点に達して、変な方向にいったのか?

剣八は妻が恐ろしくなった。

「ねェ剣たん剣たん」

やちるは座り直し、ソファの上でなぜか正座をした。
そして自分の横に座れと、ソファをぺしぺしする。

「すわってすわって!」

おっかなくて言われるがまま座ると、
すぐに剣八の膝の上にやちるはまたがった。
更に首の後ろに手を回してきた。

「………剣たん……大好き……」

やちるはうっとりと、剣八を見た。

その舌足らずな口調で甘い囁き。
潤んだ瞳に、よく見るとやちるの頬は赤くなっている。


何がなんだかさっぱり分からない。

剣八は妻の豹変ぶりに驚いて、身動きできない。
最強と謳われる彼の背中には、冷や汗が流れている。

「や……やちるどうした……」

「なんでもないれすよー」

「……なんでもないわけないだろ」

「あーーそっかーーうんとねーー」

やちるは何もない右上の天井を、見つめながら、

「剣たんがいなくなっちゃうから……さびしくなっちゃってぇ……」

「……おう」

突然のやちるの本音を聞いてしまって、
剣八は胸がきりりと痛んだ。
頷く事しかできない。

しかし次のやちるの言葉に、
その思いはぶっ飛んでしまった。


「だいどころのしたをのぞいたら、いいものがあったのでぇ……
いっぱいやってみましたっ!!」


「あァ?!」

何故かえへんと、胸をそるやちる。

「お前…飲んだのか?!」

まさか……コイツ……酒を飲んだのか?

「のむわけないじゃないですかぁ、あたしはがくせいれすよ」

剣八は心底ほっとした。

「じゃあお前は……」

剣八が問うより早く、やちるは言った。


「だからぁ、おさけによくにたぁ……
みりんをガブッといっぱい!」

「………!!!?」

剣八は耳を疑った。

「お……お前……みりんを飲んだのか………?」

膝に乗ったやちるに恐る恐る聞く。

「あい。いがいといけました」

やちるはうむうむと言いながら、首を縦にこくこくと振る。

「……お前…………」

「おいしいみりんだからぁ、あんまーいおさけみたいだったー」


料理の知識のない剣八でも、みりんの中には、
お酒が含まれているのを分かっている。

昔ウィスキーボンボンを一個食べただけで、
泥酔してしまった超下戸のやちるなのだ。
そんな奴が飲んでしまったら、どうなるか……
誰にでも察しがつく。



やっと理由が分かった。
このやちるのおかしな状態は、酔っ払ってるのだ。



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