KoT

□【眼鏡】
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■その後の世界
マルコ×カスミ【眼鏡】



「カスミ!」
「はい!マルコさん」

マルコさんが自分の名前を呼ぶ。
そんな些細な事でも嬉しくて、カスミは満面な笑顔で振り向いた。
あまりにも嬉しそうに笑うものだから、
マルコもつられて少し笑った。
すぐ近くにいるのに、走って寄ってくるカスミ。
目の前にきて、もう一度微笑む。

「どうしました?マルコさん」
「いや何……気になる事があってな」
「?……はい」
首を傾げるカスミ。

「気になる事がある」
と、マルコが言う時は悪知恵を働かせている時だと、
後に彼女は知る事となる。


「カスミ……眼鏡を外してくれないか?」


「え?」
「眼鏡を外したカスミを知り……」
「や、やです!」
マルコの言葉を途中で遮るカスミ。
慌てて自分の眼鏡のツルを掴む。

「あぁ?なんでだ?」
「……恥ずかしいからです……」
即答するカスミ。
「眼鏡を外す事がどうして恥ずかしいんだ」
「だって……外したら私の顔を……見るでしょ?」
「今も見てるが?」
「そうじゃなくて……まじまじと見て、確認しますよね?」
「そうだな」
「だからです。恥ずかしい」
「……………」

マルコは眉をひそめて、無言でカスミに近づいた。
カスミはぴょんと後ろに跳ねて
、逃げた。
「……………」
「……………」
じりじりと歩み、カスミとの間隔を狭めようとするマルコ。
それに対してカスミは後ろに下がって、間隔を開ける。

近くなったり遠くなったり、
無言の戦いを何度か繰り返した後、
マルコはふうっと、ため息をついた。
「その恥じらい方は……日本女性の特質、ヤマトナデシコと言うヤツか?」
「……違うと思います」


私と一緒にいるようになって、日本の事を色々と勉強しているマルコさん。
頭の良い人だから、凄い勢いで知識を吸収している。
しかし私を忍者の末裔と思っていたり、勘違いしている事も多い。

「じゃあ何故だ?眼鏡を外す事を、どうしてそんなに嫌がるんだ」
「そ、それは……」
と言かかってカスミは言葉を飲んだ。
代わりにカスミは心の中で呟く。


あなたが私の大好きな人だから。
見つめられるのが恥ずかしいの。
と。

「ハグもダメ、キスもだめ、挙げ句の果てには、眼鏡を外すのもいやときた」
マルコの視線は下を向いた。
「大した事をお願いしているつもりはないのにな……」

「そうか、お前もしかしたら……」

マルコが顔を上げてカスミを見た。
その瞳は真剣だった。


「俺が……嫌いなのか?」


「ち、違います!」
マルコの誤解に、カスミは驚き、手を振って弁解する。
「あたしはただ、マルコさんのことが……!!」


ひょい


「え?!」
カスミが弁明しようと、眼鏡のつるから手を離した。
その瞬間、マルコは素早く片手を伸ばして眼鏡を取った。
「……ほう」
「ひ、酷いです!!マルコさん!!」
愕然としたカスミ。
すぐに我に返りマルコに詰め寄る。
「私を騙して!!」
眼鏡を取り返そうとしたが、
マルコは眼鏡を持った手を、高く上げる。
小柄なカスミには勿論届かなくて……
カスミは手を伸ばして、ぴょんぴょん跳ねた。
「くくくっ……お前うさぎみたいだな」
「マ……マルコさん!!」
怒り沸騰のカスミ。

そんな様子を笑いながら、マルコは怒るカスミの顎に手を添えた。
ぐいっ顎を上げる。

「!!!」

カスミを見下ろす形になった、マルコ。
こんな間近でじっと見つめられるのは初めて。
カスミは怒りを忘れて、焦った。

「なっなんですか?!!」
「……再発見だな」
「えっ?」

「眼鏡を外すと、更に瞳が大きく見える……」

「………!!」


「黒い瞳の中に俺が写ってる…綺麗な瞳だな……。カスミ」


「……つ――――!!」
言葉にならない悲鳴を上げて、カスミは手をはらいのけた。
耳までも真っ赤に染め上げる。
カスミは眼鏡を取ろうと飛び上がった。
おっと、と言いながらマルコはかわす。
「もういやっ!返して下さい!!」
「綺麗な瞳なんだから、隠さなくてもいいだろ。」
「お願いだから、返して下さい!」
「眼鏡をかけてないと、俺と他人の見分けがつかないのか?」
「マルコさんと他人は分かりますよっ!」

カスミの返答に対して、マルコはにやりと笑った。
酷く悪い顔で。

マルコは屈み込み、カスミの耳元に顔を近づけた。
吐息がかかる距離。
彼は低い声で囁いた。

その言葉はカスミにとって、
トドメの一言だった。


「ならいい。お前は俺だけ見てればいい」




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