【奥さんは高校生】
□【十一年目の初雪】
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やちるは一際高い彼の背の上で、
天に向かって手をのばした。
「剣ちゃ―ん、見て見て、雪が降ってきたよ!」
「……あァ」
買い物袋をぶら下げながら、歩いていた剣八は、ちらりとも空を見ない。
「見て見てよー。白いよ。ふわふわだよ。綺麗だね―」
剣八の上できゃっきゃっと騒ぐ。
やちるは小さな手のひらに降りた綿雪を、
剣八に見せようとした。
大事に両手で、そろーっとすくう様に差し出したが、すぐに溶けてしまい驚いた。
「あれ……?なくなっちゃった……?」
「……やちる……」
そんな騒ぎを全く気にしていない剣八は、やちるを呼んだ。
「な―に剣ちゃん?」
「前に来い」
「!……うん!」
うんしょっと……やちるは肩からするりと降り、襟からコートの中に入って、剣八の暑い胸にしがみつく。
剣八は右腕でやちるを支えると、開けていたコートのボタンを止めた。
「剣ちゃんの中……あったかい……」
やちるはえへへと笑って、襟元から小さな顔を、ぴょこりと出す。
「剣ちゃんはあったかい?」
「……あァ……」
剣八は胸元の小さな頭を顎で、くしゃくしゃとなぜた。
「……あったけェな……」
「良かったぁ」
やちるは負けずと頬を、剣八の胸にぐりぐりと擦り付けた。
そしてぽつりと呟く。
「剣ちゃん……ありがと……」
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