【拍手の物語】

□【今日のやっち】
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※この物語は【奥さんは高校生】の過去編です。
やちるが園児で、剣八は未来編と同じです。





大雪の早朝。

目を覚ました剣八はいつも隣で寝ているやちるが、いない事に気がついた。

便所かと思ったが、しばらく経っても戻ってこない。

剣八は完全に目が覚めてしまった。
手を伸ばし布団を触って確認する。
長い時間いない証拠に、布団は冷たくなっていた。

アイツ遅ェな………。


この日の朝は、とても寒かった。

ストーブも就寝時に消してしまったので、
冷たい空気が部屋の中を支配していた。
首元からすうすうとした風が入ってくる程だ。
霜で覆われている窓から外を見ると、
無数の雪が降っているのが、見えた。


こんな早朝に……アイツ何してやがるんだ……。


剣八がとうとう起き上がろうとした時、
ようやく廊下の方からパタパタと足音が聞こえてきた。

やっと戻ってきたか……。

剣八はほっとして瞼を閉じた。



やちるの歩みは部屋に近づくにつれ、ゆっくりとなり、
部屋の前まで来ると、そろりそろりとした歩みに変わった。

小さなやちるなりに剣八に、気を使っている。

静かに障子を開け閉めをし、抜き足差し足で、布団に近づいた。
そして剣八の脇の下に潜りこむ。


剣八は目を開けた。


「……やちる?」

「……あ、剣ちゃん……起きちゃった?」

自分の脇の下から小さな声が聞こえる。


「おめぇが遅いからだ。それより……」

剣八が問いかけるより早く、やちるは言った。



「……大丈夫……大丈夫だよ……」



「馬鹿野郎、何が大丈夫だ」

剣八は自分の体に寄りそった小さな体を、両腕で抱きしめた。

「……震ってるんじゃねェか」

やちるは小刻みに震えていた。
剣八の耳にかろうじて聞こえる様な声で、言った。

「……あの……ね……」

「……あァ」

「………足がちめたいの」



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